「働かないおじさん」と一律に言ってはいけない
雇用の在り方を見直そうという議論が活発になっている背景には、社会保障制度を持続的なものに作り替えていかなければならないという事情もある。人生100年時代ともいわれ、労働者が希望すれば70歳まで働き続けられる雇用制度をつくるよう企業に努力義務を課す「高年齢者雇用安定法」の改正案、通称「70歳定年法」が通常国会に提出されるのは、そうした流れの中にある。
だが、ビジネスパーソンにとって切実なのは、経営側が覚悟を固めて組織にメスを入れ始めたことだ。従来の雇用モデルを続けていては、急速なデジタル化の進展や激しさを増すグローバル競争に対応できないとの危機感が背景にある。それは、これまでのような業績悪化に伴う雇用調整とは一線を画す。特にターゲットとされているのが、給料に見合った貢献をしていないと言われるシニア層の処遇だ。
既に多くの企業で役職定年が導入されるなど、シニア層の処遇は賃金を引き下げる方向で見直されてきている。それが、モチベーションが低下した「働かないおじさん」と揶揄(やゆ)されるシニア層を生み出しているとも言われ、組織の活力を停滞させる副作用も懸念されている。「終身雇用」を前提に入社して頑張って働いてきたビジネスパーソンの中には、経営側の事情で一方的にお荷物扱いされ、組織が活性化しない原因であるかのように位置付けられるのは納得がいかないという声もある。
中原教授は、「現在、日本企業が抱えている問題を『働かないおじさん』の問題と一律に言ってはいけない。生産性に見合わない高い賃金をもらい、会社にぶら下がろうという願望を持っている人は若い人にも女性にもいる」と“おじさん″を悪者扱い風潮に警鐘を鳴らす。日本企業が直面しているのは、あくまでも構造的な問題であるからだ。安易に特定の年齢層にレッテルを張るのは、組織の中に分断を生み、本質的な問題の解決から目を背けることにもなりかねない。
過去30年間、日本の組織が活力を失い、経済が停滞してきた原因を日本型雇用が内包してきた構造的な問題に求める意見は多い。立命館アジア太平洋大学(APU)の出口治明学長は、「日本的な雇用の特徴とされる新卒一括採用、終身雇用、年功序列、定年というのは1セットのガラパゴス的な労働慣行で、人口の増加と高度成長がなければ成り立たないモデル。その前提はとっくに壊れている」と指摘し、解決を先送りにしてきたマネジメントを批判する。