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新型コロナウイルスの影響で経済の先行きが見えない中、イノベーションを進めようとしてきた現場に今何が起こっているのか。そして、今後はどのような変化が予想されるのか。緊急事態宣言が明けて約1カ月がたった今年6月、花王代表取締役専務執行役員の長谷部佳宏氏(9月29日に2021年1月1日付で社長に就任すると発表)とWiL共同創業者兼CEO(最高経営責任者)の伊佐山元氏、ストックマーク代表取締役CEOの林達氏の3人が集い、大企業、シリコンバレーに拠点を置くベンチャーキャピタル(VC)、スタートアップのそれぞれの立場からウィズコロナ時代のイノベーションについて議論を交わした。鼎談(ていだん)の様子をお届けする。

(聞き手は日経ビジネス副編集長の原 隆、書き手は木原 杏菜)

花王本社で開かれた花王代表取締役専務執行役員の長谷部佳宏氏、WiL共同創業者兼CEO(最高経営責任者)の伊佐山元氏、ストックマーク代表取締役CEOの林達氏による鼎談の様子(写真:的野 弘路)

まずは新型コロナの影響について率直にお聞かせください。

長谷部佳宏氏(以下、長谷部氏):花王では消毒液や手洗い洗剤、家庭の掃除需要など特定分野の高まりがあり、生産、供給に尽力しています。一方で、全体の需要は少し下がっている。化学メーカーは影響を受けていないという報道も見聞きしますが、全業態でみると、悪い影響のほうが強いと感じています。

 働き方については、2月末から3月頭にはほとんどの業務をリモートに切り替え、出社も制限。4月から5月にかけては業界の足並みがそろったことでリモートワークのほうがコンタクトを取りやすくなり、前進する仕事もでてきました。これまであまり進んでいませんでしたが、1年ほど前からリモートワークを推進していた経緯もあってシステムが用意されていたので、ストレスなく移行できています。

シリコンバレーから参加したWiL共同創業者兼CEOの伊佐山元氏(写真:的野 弘路)

米国ではどのような影響があったのでしょうか。また、ベンチャーキャピタル(VC)に及ぼした影響についても教えてください。

伊佐山元氏(以下、伊佐山氏):米国全体が劇的に変わりました。米国では「Work 2.0」という言葉を使ったリポートも出ているように、社会全体がリモートワークに移行、小売りの現場などでも非接触の決済などを導入する動きがあり、特にアナログ依存の強い産業ほどデジタル化が望まれています。

 日本では既にリモートワークから出社へ戻る動きもありますが、米国ではリモートワークが一過性のものではないという認識が強く、リモート前提社会をどうつくっていくかの議論がなされています。特にシリコンバレーでは、デジタル技術をこれまで以上にどのように活用していくのかに重点が置かれていて、「Zoom」や「Slack」などのコミュニケーション領域だけでなく、オフィスに来なくてもクラウドで使えるソフトウエアやツールを当たり前にする動きが顕著です。

 グーグルやフェイスブック、ツイッターのように未来永劫(えいごう)、リモートワークでもよいと言い切る会社も出てきました。職種にもよりますが、デジタルトランスフォーメーション(DX)が加速した数カ月だったと言えるでしょう。

 日本ではあまり取り上げられていませんが、米国で深刻視されているのは、デジタル化が進むことによって起きかねない社会の二極化です。日本は文部科学省が一律で子どもたちにPCを支給できる国のサイズです。一方、米国ではシリコンバレーの住民ですら、PCを持っていなかったり、家にインターネットがつながっていなかったりする子どもたちがいます。

 富裕層は変化に適応することでより強くなり、お金のない人たちは適応できずにより貧しくなる。持てるもの、持たざるものの二極化が大きく進む可能性があり、ここを行政やスタートアップがどう解決していくかが今後の米国社会の課題だとみています。

 ベンチャー業界においては、危機の際には動きが活発になる傾向があります。危機を解決することが大きなビジネスチャンスであり、「ピンチがチャンス」の精神で生きているのが起業家です。コロナ禍ではヘルスケアと行政システムの問題が浮き彫りになりました。2008年にはリーマン・ショックによる金融危機が発生し、金融機関に対する怒りがフィンテックブームを生み出しました。怒りが健全な方向に向いた事例です。2020年、ヘルスケアの領域でも同じ動きが出てくれば面白いとみています。