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 「感染者をできるだけ早期に発見する。クラスター対策をいっそう強化する。その鍵は『接触確認アプリ』の導入です」

 新型コロナウイルス感染拡大を機に発出した緊急事態宣言を2020年5月25日に当初予定から前倒しで解除した安倍晋三首相。同日に首相官邸で開いた会見では、新たな日常を作り上げるための発想の転換を説きつつ、6月中旬に提供開始予定の「接触確認アプリ」の活用を促した。

 接触確認アプリは、スマートフォンが搭載する近距離無線通信機能「Bluetooth」を使った感染拡大防止ツール。シンガポール政府がいち早く導入した「Trace Together」が有名だ。経済活動と感染拡大防止を両立させる手段として各国で導入する動きが広がっている。

 各国のアプリの中核機能はおおむね似通っている。アプリを導入したスマホ保持者の濃厚接触者(一定距離以内で一定時間以上接触していた人)を記録しておき、新型コロナの感染が分かった時点で、過去にさかのぼって濃厚接触者に対してアラートを発する。

日本のアプリはプライバシー保護重視

 日本政府が提供予定の接触確認アプリは、国内のプライバシー保護意識を優先し、位置情報や電話番号といった個人情報を取得せずに提供する予定だ。経済活動を再開するためには接触確認アプリのような技術の活用が期待されるが、新型コロナ感染者に対する不当な差別や偏見が懸念されるのも事実。先行したシンガポールのTrace Togetherの導入が2割程度と伸び悩む中、少しでも接触確認アプリの導入を広げたいという政府の意向が反映されている。

 新型コロナによる日本国内の死亡率の低さの要因は、現時点では明確になっていない。遺伝的要因、獲得免疫、自然免疫、生活習慣など海外メディアでも様々な推測が飛び交っている。日本政府は、強制力を持たない要請ベースにもかかわらず個人が行動を抑制した結果だと主張している。

 「我が国では緊急事態を宣言しても罰則を伴う強制的な外出規制などを実施することはできない。それでも、日本ならではのやり方でわずか1カ月半で今回の流行をほぼ収束させることができた。まさに日本モデルの力を示したと思う」。先の会見で安倍首相はこう述べた。

 だが、提供予定の接触確認アプリで日本モデルを確立することは難しかったようだ。「当初、考えていたのは一人ひとりが行動変容するために役立つアプリだった」と明かすのは、新型コロナウイルス感染症対策テックチームで事務局長を務める平将明内閣府副大臣だ(関連記事:「接触確認アプリ」開発の紆余曲折、平内閣府副大臣が語る)。