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新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、政府は人と人の接触を最低7割、極力8割削減を要請している。在宅勤務が広がる一方で、様々な要因で実現できない企業も残されている。会計や人事労務など、企業のバックオフィス最適化ツールを広く展開するfreeeの佐々木大輔CEO(最高経営責任者)はこうした状況をどう見ているのか。話を聞いた。

freeeの佐々木大輔CEO(最高経営責任者)(写真=的野 弘路)

新型コロナがfreeeの事業に与えている影響は。

佐々木大輔・freeeCEO(以下、佐々木氏): もう少し時間をかけてみなければどれほどの影響を受けているか分からないが、様々なベクトルが存在しているのは確かだ。個人事業主の確定申告が無期延期になり、明確なピークが無くなっている影響はありそうだが、一方でクラウドサービスへの興味を持ち始めている企業も増えている。基本的にはfreeeが提供するプロダクトは、社内のリモートワーク環境を進めたり、取引先とのやり取りをオンライン化したりする要素がある。今までの計画通り、粛々とやるという感じだ。

 社内のリモートワーク実施については、臨時休校要請が出た3月頭から実施した。当初はインターネット環境が自宅にない社員はどうするのか、生産性が下がるのではないかといった懸念も出たが、一つひとつ解決することで対応できた。残っている数少ない出社が押印を必要とする法務部だ。だが、それもかなり出社頻度を落とすことができている。

 長期化も視野に入れなければならない。信頼関係の構築やチームビルディングをオンライン環境だけで実現するのには限界がある。だが、一方でやり方によっては実現できるのかもしれないという手応えもあった。今年の入社式は新入社員の紹介を動画で制作し、インタラクティブなコンテンツとして社員にストリーミング配信した。一部からは「リアルで実施するよりも良かったかもしれない」という声も挙がった。こうした成功体験を積んでいければ、仮にリモートワーク環境下であってもチームビルディングや社内カルチャーの醸成にも寄与するかもしれない。

新型コロナのまん延で押印や対面といった従前から続く日本の慣習にスポットライトが当たっている。

佐々木氏:もともと日本以外は通常時のコミュニケーションでもビデオ会議に移行していた。だが、日本はどうしても対面でのコミュニケーションが消えないでいた。それは営業も同じで、例えば世界中に進出している米セールスフォース・ドット・コムが訪問営業するのは日本だけと聞いている。今回の新型コロナの登場によってリモートワークが広がる中、押印を減らしたり、コミュニケーションをビデオ会議に移したりする動きが広がっている。だが、進んでいる側面もあれば進んでいない側面もある。例えば中小企業のリモートワークはなかなか難しい。どこかで訪問営業をしないと顧客を失ってしまうのではないかという心理的なハードルが残っているのが実情だ。

 民間同士のこうした慣習を変えていくには、自社のことのみを考えていても難しい。取引先のことまで考えて行動する必要がある。自社のリモートワーク環境への移行は自社が決めれば実現する。事実、取り組んでいる企業は非常に多い。だが、取引先もリモートワークに移行できるよう、配慮をしているのかというとそうではない企業が多い。

 民間からこうした慣習を取り除いていくのは非常に難しいことだが、様々なアプローチを多重で組み合わせて進めていくしかない。民間の契約書でも行政書類でも、なぜ押印が必要なのか。その一つひとつをしっかりと考え直していく必要がある。現在は政府主導で各省庁の押印原則についての見直しが始まっているようだが、こうした問題は地方自治体にも数多く眠っている。

 もう1つは理解の問題だ。契約を結んだ後に、印鑑が押されているかどうかではなく、どういう意思を持って合意をしているのかということが重要になる。もし仮にもめ事になったとしても前後のメールのやり取りが重要な証拠になる。合意の手法は印鑑以外でもいいという認知がまだ広く知れ渡っていない。