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肌身で感じていた等身大の課題を経営陣は理解してくれなかった。だが、諦めきれなかった広報ウーマンは1年後、熱意と理論武装で「おじさんの壁」を乗り越えた。執念で勝ち取った新規事業提案制度の大賞の末に、彼女に振ってきたのは「起業せよ」の指令だった。

 世代を表す言葉は実に多い。「団塊の世代」「団塊ジュニア」「ミレニアル世代」「ゆとり世代」「Z世代」など、これまで様々な言葉が生まれてきた。こうした世代を示す言葉は互いに理解を得にくいシーンで使われることもある。世代による価値観や感覚の違いはことのほか大きいということだろう。

 「おじさんの壁に一度は阻まれました」。こう苦笑するのはアンドユー代表取締役の松田愛里氏だ。

アンドユー代表取締役の松田愛里氏(写真:的野 弘路)

 1991年生まれの松田氏が2019年1月に起業したアンドユーは、パーティドレスのレンタルサービス「ANDYOU DRESSING ROOM」を手掛ける企業。結婚式に参列するゲスト向けに、通常であれば数万円するドレスを4500円~9500円でレンタル可能にしている。選べる衣装は約650着で、料金には往復の送料やクリーニング代も含まれている。

 アンドユーは結婚式場運営を主事業とするノバレーゼの新規事業提案制度「ノバレーゼレボリューション」を経て、法人化された企業だ。ノバレーゼで広報業務を担当していた入社3年目の松田氏は2017年、この新規事業提案制度に初めて応募した。

 松田氏が新規事業提案に臨んだきっかけは、ふつふつと抱いていたある疑問がきっかけだ。日本の挙式は、型にはまったスタイルから徐々に脱却し、インポートドレスを採用する新郎新婦も増え、多様化が進んでいた。だが、ブライダル業界全体を見渡すと、なぜか世界のトレンドに取り残されている気がしていた。

 この最たる理由が挙式に参列するゲストの衣装だ。Aラインでひざ丈、リボンがついており、どのドレスも光沢を帯びている。街中で見かけると「結婚式の帰りだな」とすぐに分かるほど画一的。「参列者側の衣装に多様性がないことに課題がある」(松田氏)と感じていたという。

 そもそも、日本ではドレスアップをしてパーティに参加する機会があまりない。加えて、20代の女性にとって様々なドレスを取りそろえるのは金銭的負担が大きい。購入すると国産ブランドで2~3万円ほど、インポートドレスになると5~6万円ほどかかる。そもそも結婚式への参列は交通費やご祝儀などの出費がかさみ、「平均で5万5000円かかると言われている」(松田氏)。

 ここにソーシャルメディア全盛の時代だからこその特有の悩みも加わる。参列の様子の写真をFacebookやInstagramにアップする人が増え、同じドレスを着回していることが一目で分かってしまう。

 「一度きりでも、かわいいものを簡単にレンタルできるというのが時代の流れに沿っているはずだ」。様々な領域でシェアリングサービスが出始めていた2017年、松田氏は女性を対象としたインポートドレスのレンタルサービスのアイデアを事業計画に落としこみ、自信と確信をもって会社の新規事業提案制度に応募した。

 だが、27歳が肌身で感じていた等身大の課題を経営陣は理解できなかった。「一次審査、二次審査は通ったものの、役員審査で見事に落ちました」(松田氏)。来年では遅い、今でなければダメなんだと思っていた松田氏は、相当なショックを受けた。

 「役員に一人でも女性がいれば違ったのかもしれないが全員男性。おじさまたちにはまったく理解してもらえなかった」(松田氏)と振り返る。

 だが、どうしても自身のアイデアに思い入れがあった松田氏は諦めきれなかった。自身の提案を再度、見返した。熱意については十分。だが、「男性でも分かる資料ではなかった」(松田氏)。絶対に文句ひとつ言わせない緻密な事業計画を作ってみせる。1年間思いをたぎらせ、翌年の新規事業提案制度に再度、応募した。規定の応募フォーム内では語りきれないと、パワーポイントの資料40枚も送りつけて。

 結果、2018年に大賞を受賞。はれて事業部が立ち上がると喜んでいた松田氏に経営陣がかけた言葉は「来年1月から社長よろしく」だった。広報業務の楽しさを知り、一度はその道を極めてみたいと思っていた松田氏。だが、これまでの知識や経験ではとうてい対応できない、突然振ってきた「会社設立命令」だった。

 松田氏は周囲のサポートを受けながら奔走し、なんとか会社を設立。その3カ月後にサービスを開始させた。「細かい指示もなく放任。完全に任せてもらっている」と松田氏は笑う。

 アンドユーは徐々に利用者が増え、スタートアップとして滑り出しは順調のようだ。一度は阻まれた「おじさんの壁」にめげることなく全力でぶつかってこじ開けた熱意で、松田氏はこの後も走り続けるのだろう。

「ANDYOU DRESSING ROOM」で取り扱うインポートドレス(写真:的野 弘路)