精密機器メーカーであるリコーがインドで女性用下着を売り始めた。なぜインドなのか、なぜ下着なのか。背景にあるのはリコーの創業精神を現代に甦らせようとしたアクセラレータープログラム、そしてそれに呼応してチャレンジした女性社員たちだった。
2019年10月、創業5年目の女性下着メーカーのXYにメールで問い合わせが舞い込んだ。XY取締役社長の織田愛美氏はその企業名を見て、目を疑った。時価総額7000億円を超えているリコーだったからだ。
「なぜ、こんな大企業がスタートアップの私たちに?リコーって複合機作っているメーカーじゃなかったっけ?」

だが、それから3カ月後の2020年1月、リコーはXYがデザインした女性用下着をインドで販売し始めた。これらの下着は少々ユニークだ。「インド柄」ともいえる伝統的な模様が施されており、一般的な下着とは一線を画したもの。トレンドに敏感なボリウッド女優が斬新なデザインに飛びつき、Instagramなどに投稿。それが注目を集めるなど一定の成果を挙げている。
なぜ、リコーはインドで女性用下着を販売し始めたのか。背景を知るには10年前までさかのぼる必要がある。
インドで女性の置かれていた立場に驚く
元リコー社員の江副亮子氏は2010年、リコーから派遣されてインドのビハール州にいた。「当時、年間所得が購買力平価で3000ドルを切るBOP(Base Of the Pyramid)層に向けたビジネスが活況だった。とにかく現地に入り、インド農村部の人たちの気持ちを理解してほしいというのがミッションだった」と江副氏は振り返る。
江副氏は派遣初日から農村部の人たちとのコミュニケーションに努めた。日本から浴衣を持ち込み、日本の文化を伝えようとしたが、そこで目の当たりにした光景は日本では想像だにしなかったものだったという。
集会場に集まった男性、女性ともに浴衣姿に興味を示してくれたものの、女性がなぜか席に座ってくれない。「男性が先に座ったエリアに女性が座れない文化がそこにはあった」(江副氏)。女性の専用席を用意して初めて集会場に女性が入ってきてくれたという。インドに根深く残る男女間の格差を痛感した。
「それまで女性問題に全く興味がなかった」という江副氏だが、インドの実情を知ったことでインド人女性の実態に興味がわいたという。派遣期間である1カ月間、女性だけ集めては様々な意見を聞いた。そこで最も大きい声は「働きたい」だった。
インドにはいまだに続く「ダウリー」という慣習が残っている。花嫁が花婿へ持参金や家財道具を贈る慣習で、女の子が生まれると結婚時に年収の何倍ものお金が出ていく。そのため、女の子が生まれるとやっかいものが生まれたという扱い。インド人女性は学校にも行かせてもらえず、結果的に就労できない。
「女性だって働けるはず。洋服を作ったり絵を描いたり、クリエーティブな仕事がしたい」。インド人女性からもれてくる本音は、少なからず江副氏に衝撃を与えた。彼女らに働いてもらうにはどうすればいいのか。見つけたのが「女性用下着」だった。