旬の「あの人」と対話ができる。参加者同士でつながれる──。日経ビジネスは、記事やイベント、動画を組み合わせた新しいコンテンツ「Raise LIVE」をお届けします。あなたも、このコミュニティーの一員になりませんか。水曜日は副編集長の原隆が「起業家は語る」と題した連載とイベントを担当します。

■「起業家は語る」トークイベント

2/5 起業家マインドの強みを生かす
ゲスト:マネーフォワード社長CEO 辻庸介氏

2/12 自動運転社会で日本が発揮できる強み
ゲスト:ティアフォー取締役会長兼最高技術責任者(CTO)加藤真平氏

2/19 「D2C」ブランドで実現する「理念経営」
モデラート 市原明日香氏

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 いただいた年賀状をきっかけに先日、約3年ぶりにお会いした経営者がいる。ソースネクストの松田憲幸社長だ。現在では累計出荷台数60万台を突破したAI(人工知能)通訳専用機「POCKETALK(ポケトーク)」で知っている方も多いのではないだろうか。

 筆者が駆け出しのころの所属雑誌は日経パソコン。40万部近くまで日経パソコンの販売部数が伸びたころ、異彩を放っていたソースネクストはよく覚えている。

 1996年8月創業のソースネクスト(設立時の社名はソース)が、初めて日本経済新聞の地方経済面に掲載されたのは地方経済面のソフトヒットチャートだった。1997年1月のソフト販売ランキング3位に、パソコンの高速化を図る同社のソフト「驚速」がノミネートした。

 企業として存在感を表し始めたのは1999年4月だ。ネットワークアソシエイツ(現マカフィー)が販売する個人向け製品の店頭販売における総販売元になる契約を締結したニュースからだ。ネットワークアソシエイツが発売していた「マカフィー」ブランドを同年5月からソースネクストブランドで販売し始めた。

 2003年には「いきなりPDF」がヒットし、販路を従来の家電量販店から書店やコンビニエンスに拡大。加えてソフトの「コモディティ化戦略」を発表。同社が販売する全てのパソコンソフトを1980円均一にしたのだ。

 当時の日経パソコンの記事にはこう記されている。「1980円という価格はとにかく衝撃的だった。タイピング練習ソフトの『特打』や高速化ユーティリティの『驚速』など、従来は5000円以上した人気製品が一気に1980円に。いきなり1万円近く値下げされた製品もある」。

 2001年にソフトバンクがADSL市場で価格破壊と店頭でのモデム配布という分かりやすさを持ち込んだように、ソースネクストはパソコン全盛期のパッケージソフトに「分かりやすさ」を持ち込み、価格破壊を起こして業績を伸ばした。

 その後、パソコンからスマホへと時代が遷移する中で、ソースネクストはパソコン市場で示していた存在感が消えていた。あくまでも筆者の主観的な感想にすぎないが、約3年前に松田社長にお会した際、ソフト市場を席巻していた時の「眼」とは少し異なって見えた。今、考えれば「雌伏の時」だったのかもしれない。

 ちょうどこの頃、ソースネクストはスマホ向けの次世代型・留守電サービス「スマート留守電」の海外版「iGotcha」の米国展開を開始する前だった。このプロダクトは留守電メッセージをテキスト化してSMS(ショートメッセージ・サービス)やFacebookのメッセンジャーなどのアプリで受け取れるというもの。英語やスペイン語など11言語のテキスト化に対応していた。

ポケトークの画面
ポケトークの画面

 そして、同年12月、ポケトークが世の中に生み出されるのである。オランダのトラビスと共同開発したポケトークは、ソースネクストの“これまで”が凝縮されていた。通信契約を一切結ばずに購入してすぐに使える利便性、海外に持って行っても設定不要でそのまま利用できる汎用性、少ないボタンで操作できる簡便性。

 先日お会いした際、実機を初めて触らせてもらった。箱から出して使えるようになるまで約1分。画面の指示に従って2~3のボタンを押すだけですぐに使えた。加えて驚いたのは通訳のスピードだ。正直、なぜポケトークがここまで支持されているのか分かっていなかった。スマホで十分ではないかという思いがあったからだ。だが、会話にはテンポが必要だ。通訳に特化した専用機ならではの操作感だった。

 「ソフト販売の頃の経験も、スマート留守電の経験も、どの経験も無駄ではなかった。これらの経験の蓄積が今のポケトークに繋がった」。松田社長は嬉しそうにこう語ってくれた。

 そして、何よりうれしかったのは、松田社長の「眼」が、若かりし頃に見たあの「眼」に戻っていたのである。この感覚は、起業家を長く追いかける記者にしか分からないかもしれない。

 上場しても株価が冴えず悩む起業家もいる。社員が離れていくことに悩む起業家もいる。表に見えているのは、キラキラとした起業家の一面に過ぎない。会社員と同様、起業家だって悩む。

 だが、起業家のほとんどは死なない。何度でも甦る。いつかまた訪れるであろうチャンスをつかむべく、もがき続ける。そして、その努力が必ずまた花をつけるときが来ると信じている。

 起業家と会社員で何かが違うとするならば、起業家は境遇を憂うことが少ないということかもしれない。どのような状況でも努力を続ける。並々ならぬプレッシャーがあらゆるステークホルダーからもたらされようと、起業家は意思を持ち、走り続ける。

 起業しなくとも、起業家のマインドを知ることは決して無駄ではない。2月の毎週水曜日に開催する「起業家は語る」では、こうしたマインドを対談を通じて少しでも引き出して、来場者やRaise LIVEの視聴者に届けられればと考えている。

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