旬の「あの人」と対話ができる。参加者同士でつながれる──。2月、日経ビジネスは記事やイベント、動画を組み合わせた新しいコンテンツ「Raise LIVE」をお届けします。あなたも、このコミュニティーの一員になりませんか。月曜日は記者の島津翔が「多様化する稼ぎ方、達人が明かす秘訣」と題した連載とイベントを担当します。
「多様化する稼ぎ方、達人が明かす秘訣」トークイベント
2/10 SNS時代に副業を成功させる秘訣
2/17 パラレルキャリアの始め方・実践編
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(前回から読む)
2月3日、Raise LIVEのイベント第1弾にはスキルシェア大手・ストリートアカデミーの藤本崇社長が登壇。2019年に売れたスキルランキングを基に、どんなスキルに値段が付くのかを語った。「第一人者である必要はない。一般の消費者より少しだけ詳しい分野の経験や知識があれば売れる」(藤本社長)。どうやって自らのスキルを棚卸しして消費者のニーズをつかむのか。藤本社長がイベントで明かした秘訣をお届けする。
2月3日のRaise LIVEに登壇したストリートアカデミーの藤本崇社長(左)。モデレーターは記者の島津翔(右)(写真:ドリームムービー)
イベントでは3つの話題を提供した。1つ目は、ストリートアカデミーが運営するスキルシェアプラットフォーム「ストアカ」について。ストアカには様々な講座が並び、スキルを提供する「先生」と、その講座を受けたい「生徒」とをマッチングする。講座は対面式が原則だ。対面式には、不要な資料などを売りつけられたり様々な勧誘にあったりするリスクもある。藤本社長がそれでも対面式にこだわっているのはなぜなのか。
連載「多様化する稼ぎ方、達人が明かす秘訣」では、新しいサービスやテクノロジーによって、それまで価値が付かなかったものが売れるようになっているという状況を描きたいと思っています。ストアカは「スキル」に値が付いている。まずはサービスの概要を教えてください。
藤本崇・ストリートアカデミー社長(以下、藤本氏):ストアカは「大人の学び」に特化していて、先生役がスキルや経験を対面で消費者に提供しています。起業した8年前、無料のQ&Aサイトなどはありましたが、有料を前提として、特に対面で提供するサービスはありませんでした。有料という点で、先生役はスキルで「稼ぐこと」ができる。
対面にこだわっているのは、「学び」という行為に大人が求めているのは個別具体の情報ではないと考えているからです。
情報はインターネットで検索すればすぐに出てきます。起業当時はグーグルが先生でしたが、今はYouTubeの中にたくさんの先生がいて、無料で動画を使って教えてくれる。そうした情報ではなく、消費者は学ぶことを通じて得られるフィードバックや気付き、人との交流を求めているんです。人とのつながりから得られるものですね。体験と言ってもいいと思います。
私も実際に講座を取材しました。中には受講者同士で仲良くなってコミュニティーが生まれている例もあります。
藤本氏:おっしゃる通りです。スキルを学びに行くという目的はもちろんありますが、みんな、その場が楽しいんです。情報はどこででも手に入りますが、「同期」がたくさんいてサポートし合えるという環境が楽しい。実はスクールに通う理由ってそこが大きいと思いませんか? 自分1人では継続できないけど、仲間と一緒なら続けられるし、楽しい。講師からスキルを学ぶのももちろん重要ですが、仲間から得られる視点や気付きもある。だから我々は、対面でかつグループ受講ということにこだわっています。
こうしたCtoCのプラットフォームはたくさんありますが、怪しげな講座が並んでいるものも少なくありません。ストアカが荒れていないのはなぜですか?
藤本氏:最初はすごく荒れていたんですよ。こうしたマッチングのプラットフォームは、エンジニアが2週間くらいで作ってしまうことができるような比較的簡単なプログラムなんです。だから起業してすぐに競合がたくさん現れました。でも、ストアカも含めどこも荒れてしまった。勧誘や裏がありそうなもの、短期的に稼ぎたいことがすぐに分かるもの……。メディアでストアカが取り上げられるたびに、そうしたものがたくさん入ってきました。
我々はそうした講座に対するルール作りや撲滅運動などを丁寧に続けてきました。
みんな昔はこう言っていたんです。「性善説なんて無理だ」と。例えば私が校長先生になって面接して、気に入らないものを落とせば、それはそれで良い講座だけが残りますよね。でも、それではサービスとして広がらない。CtoCのサービスとして盛り上げるには、個人が教えたいと思った時に教えられないと意味がない。でもそれではリスクが残る。「そんなの無理だ」と言われました。
でも我々は、「基本的に誰でも先生になれる」という線は崩しませんでした。その代わり、ある程度のネガティブチェックを用意しました。それを丁寧に丁寧にアップデートしてきた。徐々に徐々にですが、ご指摘されたような講座がなくなってきた。これが今の我々の強みですね。
売れる講座タイトルの共通点とは?
2つ目のテーマは「どんなスキルが売れているのか」。連載で取り上げた「2019年に売れた『スキル』ランキング」を題材に、実際に稼げるスキルとはどんなものかを藤本氏に聞いた。
ストアカでは、どんなジャンルのスキルが売れていますか?
藤本氏:ストアカでは学びの要素があればどんな講座でも開設できます。ですので、MBAで学ぶようなビジネススキルから、カルチャースクールで学ぶような趣味まで様々なテーマの講座が含まれています。
多いのは今申し上げた、ビジネス系やIT系などの「スキルアップ」、料理や写真などの「趣味・ライフスタイル」、それからビューティー・ヘルス、ヨガなどの「自分磨き」。特に最近は自分磨きが増えて、それぞれが3分の1ずつという状況です。
ストアカの協力を得て日経ビジネスが年間売上高を推計した「2019年に売れた『スキル』ランキング」を見ても、「自分磨き」が非常に多いですね。このランキングはいろんな見方ができて、1000万円プレーヤーがごろごろいるという状況に加えて、「インスタ映え」や「写真の撮られ方」に代表されるように、「セルフブランディング」が多いという印象を受けます。「どう見せるか」がはやっているということなんでしょうか…。もっと本質的な学びに目が行ってほしいという気持ちになりました。藤本さんの見方は?
「ストアカ」で2019年に売れた「スキル」ランキング
順位 |
主な講座 |
1年間で教えた人数 |
日経ビジネスが推計した年間売上高 |
1位 |
「インスタ映え」する料理教室 |
2700人 |
1290万円 |
2位 |
写真の「撮られ方」講座 |
2410人 |
2210万円 |
3位 |
ボイストレーニング |
2100人 |
1380万円 |
4位 |
少人数制「伝わる話し方」 |
1950人 |
580万円 |
5位 |
1日で成長するPhotoshop |
1800人 |
1530万円 |
6位 |
即使えるコピーライティング |
1650人 |
660万円 |
7位 |
賃貸でもOKなリノベーション・DIY |
1640人 |
820万円 |
8位 |
簡単ストレッチの方法 |
1350人 |
560万円 |
9位 |
トップクリエーターによるデザイン講座 |
1200人 |
450万円 |
10位 |
魚のさばき方 初級編 |
1160人 |
750万円 |
「ストアカ」を運営するストリートアカデミーの協力を基に、「教えた人数」順に並べた。一人で多数の講座を提供している場合が多いため、「主な講座」を例として挙げている。年間売上高は日経ビジネスの推計値。
藤本氏:そこは心配しないでください。みんな本質的なスキルを学んでいますよ。
おっしゃるようにセルフブランディング系が多いのは事実ですが、ユーザーの認知動線がSNSから引かれているという側面が強いと思います。つまりSNSで知って、ストアカの講座を受ける。その入り口にあるのがこれらの講座なんですね。エントリーポイントとしては非常に引きがありますし、講座のタイトルとしても強い。でも、そこで学ぶことが楽しくなって他の講座を受ける方もたくさんいらっしゃいます。我々の講座は170カテゴリーあって、そのほとんどはセルフブランディングではありません。
なるほど。では次に、ランキング以外も含めて売れている講座のタイトルにはどんな共通点があるでしょうか?
藤本氏:1つは、連想できるキーワードが入っていることですね。例えば「ハンバーグの作り方」ではなく「肉汁あふれるハンバーグの作り方」といった具合です。もう1つは、効果や効用をはっきり言い切ること。「1日で身体が柔らかくなる」「10分からできる」といった表現ですね。
タイトルの付け方もそうですが、そもそも講座の内容をある程度絞り込んだものに人気が集まっているという見方もできそうです。
藤本氏:おっしゃる通りです。あるアプリケーションの使い方という講座よりも、そのアプリケーションのショートカットの使い方だけにフォーカスを当てた講座のほうが人気が集まる傾向がありますね。
「第一人者である必要は全くない」
人気のあるスキルの全体を俯瞰(ふかん)した上で、最後の3つ目のテーマとして「自分のスキルを棚卸しするには?」について聞いた。前述のように、ある程度、テーマやターゲットを絞るのが重要なのは分かったが、自分がいざスキルを提供する際には、どんな知識や経験を武器にすればいいのだろうか?
ここからは自分のスキルをどう棚卸しするかについて聞いていきます。まず、今日は藤本さんに資料を作ってきていただきました。私は記者なので文章を書くというプロフェッションを持っていますが、それ以外にも、記者という職業を通じて副次的なスキルが身に付いているはずです。例えば国際線の客室乗務員の方は、接客の他に海外のグルメ情報に詳しいといった傾向があると思います。藤本さんにはいろんな職業について、副次的なスキルをまとめてきてもらいました。
藤本氏:そうですね。おっしゃる通り副次的なプロフェッションには様々なものがあると考えています。例えば投資銀行に勤めている方が財務諸表の読み方を教えるというストレートな講座もありますが、きっとエクセルの使い方にもたけているはずです。
実際にスキルもあるだろうし、消費者は「トレーダーのエクセルの使い方を見てみたい」と思うはず。つまり第一人者である必要は全くないんです。一般の人より少しだけ知っていることをスキルとして磨いていけばいい。
この表をみると、提供するスキルにかなり幅があることが分かりますね。
藤本氏:はい、それがこの表で一番伝えたいことです。ストアカの講座の約8割が初心者向けだということからも分かる通り、みんな講座を通してその道を究めたいわけじゃないんですよね。初心者は、ちょっとしたイロハや手がかりを知りたい。そこで重要なのは、初心者に寄り添ってくれて自信を持たせてくれること。その気持ちのほうがずっと大事だと思います。
ストアカでは、スキルを提供したい先生予備軍に対して、スキルを棚卸しするワークショップを開催しています。どんなワークショップなのか解説していただけますか。
藤本氏:いつも10人程度の参加者に集まってもらってワークショップを開催しています。参加する方の多くは、どんなスキルを売ればいいのか分からない、悩んでいるという人が多いのですが、私がまず申し上げるのは、「何を教えるか」ではなく「どんなニーズに応えるか」という発想をしてほしいということです。
具体的な設計では、「何を」「誰に」「どうやって」を段階的に考えていきます。消費者が知りたいと思うテーマで、かつ自分に少し知識があるものを挙げてもらい、他の参加者の前で発表してもらう。売れる講座は、その場にいる数人から「その講座を受けてみたい」と手が挙がるんです。
その後で、「誰に教えるか」を考えていきます。初心者向けなのか、ビジネスパーソンなのか。ターゲットを明確にしていく。
講座を提供したことがない人の「あるある話」をすると、みんな間口を広げたくなるんですよね。集客が不安だから、つい誰でも受けられるような設定をしてしまう。でも、絶対にターゲットは絞ったほうがいい。例えば「初心者向け」と書けば上中級者は参加をしませんが、初心者にとっては参加しやすい講座になる。誰向けなのか書かれていないと、誰も自分がターゲットなのか分からず逆に人は集まらない。
結局、講座を受けに来る人は、「自分と同じレベルの人と受けたい」と思っているんです。どんなレベルの人が来るか分からないと参加しづらいじゃないですか。
次に「どうやって」を考えます。これははっきりと「ワークショップ形式」をおすすめします。実際、一人語りのセミナー形式には相当なスキルが必要です。どんなに優秀なスピーカーでも、多くの人が話を聞いているだけだと飽きてくる。
私はいつも、講座で提供するティップス(テクニックやコツなど)は3つで十分だと言っています。あとはそれをグループワークや個人ワークで考えさせて、プレゼンしてもらう。すると、その課題に対する他者の回答からも「こうやって考えればいいのか」と気付きを得ることができる。それが楽しさにつながっていくんです。
最後に、ストアカが講師向けワークショップで使用しているスキル棚卸しのためのシートを掲載する。藤本氏の話からは、スキルシェアとは決して特殊なスキルを持っている少数の人のためのサービスではなく、自分の知識をうまく加工して提供すれば、必ずニーズがあるという自信がうかがえた。「必ず売れます。まずは一度試してみてください」という言葉に、多くのイベント参加者が頷いていたのが印象的だった。
ストアカが講師向けワークショップで使用しているスキル棚卸しのためのシート(資料:ストリートアカデミー)
藤本氏に続き、本日(2月10日)のイベントは、「SNS時代に副業を成功させる秘訣」。ハリネズミカフェやメッセージカード制作サービス、社内交流ランチサービスなどを副業として次々に成功させたエンファクトリー取締役執行役員CDOの清水正樹氏を招き、初心者向けの「副業はじめの一歩」や、SNSやクラウドファンディングを使った「副業を成功させる秘訣」を聞く。
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「多様化する稼ぎ方、達人が明かす秘訣」トークイベント
[2月10日(月)]SNS時代に副業を成功させる秘訣
エンファクトリー取締役執行役員CDO 清水正樹氏
[概要]
ハリネズミカフェやメッセージカード制作サービス、社内交流ランチサービスなどを副業として次々に成功させた清水氏。初心者向けの「副業はじめの一歩」や、SNSやクラウドファンディングを使った「副業を成功させる秘訣」を聞く。
[2月17日(月)]パラレルキャリアの始め方・実践編
HARES CEO 複業研究家 西村創一朗氏
ショートカット・Outlook研究家 森新氏
[概要]
いずれも「研究家」の肩書を持つ2人。複業研究家の西村創一朗氏と、ショートカット・Outlook研究家の肩書を持つ森新氏を迎え、現在の副業・複業を取り巻く状況やパラレルキャリアの始め方、本連載のテーマである「多様な稼ぎ方」を実践する具体的な方法を聞きます。
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