
菅義偉新政権肝いりの「デジタル庁」創設に向け、「デジタル改革関連法案準備室」が9月30日設置された。関連法案を来年召集の通常国会に提出し、来年秋の創設を目指す。
デジタルトランスフォーメーション(DX)が今、日本全体の大きな課題になっている。菅首相が9月16日の記者会見で、「新型コロナウイルスで浮き彫りになったのは、デジタル及びサプライチェーンの見直し(の必要性)」と述べ、オンライン診療、全ての小中学校にIT端末を配備するGIGAスクール構想、マイナンバーカードを活用した行政のデジタル化を強力に進めていくとした。
その旗振り役となるのがデジタル庁だ。平井卓也デジタル改革相は「民間人材の登用」を宣言している。準備室には、関係省庁から50人加わるほか、民間から10人程度の参画を見込む。また、長官には民間起用を検討している。平井デジタル改革相は、「海外のデジタル関係の会議では女性が要職についていることが多い」として、女性の起用も視野に入れる。
政府の「デジタル・ガバメント実行計画」(2019年12月改訂)は、「利用者中心の行政サービス改革を徹底し、『すぐ使えて』、『簡単』で、『便利』な行政サービス」の実現には、利用者視点がまだ不十分だと指摘。デジタルの専門家と行政をつなぐ「橋渡し人材」を府省庁内に育成するほか、ユーザーの使い勝手から設計を考える「サービスデザイン」の思考を持った民間人の力を借りることは近道となる。
政府はこれまでも民間人材の登用を試みてきた。ただ、「脱デジタル後進国 4つの元凶をつぶせ PART3 今こそ変革のとき デジタル化へ5つの提言」でも指摘したように、行政側の民間人登用の「熱意」には濃淡がある。
厚生労働省は8月下旬、「WEBマーケター」募集を始めた。広報室の一員として、ホームページのデザインやアクセス数の解析などを行う。求めるスキルは、「WEBマーケティングなどの経験(5年以上)」や「HTML、CMS、アクセス解析ツールを使える」こと。報酬の目安は「月額28万~41万円程度」とした。
インターネット上の反応は冷ややかだった。「スキルや仕事の規模に対して待遇が悪すぎる」「2年の有期雇用で応募する人間がいるのか」といった声が相次いだ。応募は低調で、募集期間を延長したという。
一方、経済産業省のデジタル・トランスフォーメーション室(2018年に新設)が今年3月、転職サイト「ビズリーチ」で募集したプロジェクトマネジャーは、応募倍率が200倍にも上った。報酬の規制が厳しい常勤でなく、非常勤職員とすることで年収800万~1000万円と高めに設定。週3日勤務も認め、希望するなら兼業も可能とした。
「民間に比べて報酬や条件が優れているわけではない」(布山剛・情報プロジェクト室室長補佐)ため、現役職員へのインタビューを通じ、経産省の大型プロジェクトに携わる魅力などを丁寧に発信。エンジニアの向上心をくすぐったようだ。
平井デジタル改革相は9月29日の記者会見で、「Government as a Startup」を標榜し、デジタル庁をスタートアップを設立するときのように前例のない迅速さで創立すると強調した。
日本全体のDXという国挙げてのプロジェクトだけに、やりがいがあるのは間違いない。報酬、仕事のやりやすさ、縦割りを打破する権限、意思決定の迅速さ--。いかに働く環境を整えて、優秀な人材を呼び込み、力を振るってもらえるかがデジタル庁の最初の課題となる。
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菅政権が創設を目指すデジタル庁。優秀な民間人材を登用し、その力を生かすには、どんな工夫が必要でしょうか。
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