全16346文字

オフィスの良さは「人の気配」

倉貫氏:そうです。僕の見立てでは、オフィスならではの良さは、「人の気配」が常にあることや、いつもどこかからチームメンバーの雑談が聞こえてきて、気軽に雑談できたり、ちょっと困ったことがあるとすぐに相談できたりすることです。

 それが可能になるオフィスの機能をまったくゼロにして、「これまでと同じようにコミュニケーションをやっていきましょう」と挑戦するのは、まだ人類には早過ぎる難題だと僕は思うんです。

 むしろ、オフィスは必要だった。より正確に言うと、オフィスが持ついつでも雑談や相談ができる機能は重要だったと明確に位置付けて、それをリモートでどうやって可能にできるのかを考えていくほうがいい。

 その機能を実現する手段として長らく選ばれてきたのは「ビルという箱を借りて、同じ場所に集まる」という手法だったけれど、別の実現方法はないのか? と、僕は真剣に考え続けてきました。その答えとして実験から始めていったのが「仮想オフィス」という環境づくりです。

 実際にうちの“社内”をお見せしたほうが分かりやすいので、画面を切り替えますね。ハイ、こんな感じです。

篠田氏:たくさんのお顔が見えます。皆さん、お仕事中なのでしょうか?

倉貫氏:お見せしているのは、独自に開発した「仮想オフィス」の画面です。ここにズラッと並んでいる人たちはみんな社員で、アイコンが白黒になっているのは、今はオフライン(非接続)にしている人です。完全フレックスなので勤怠も自由ですが、ちょうど18時を回った時間帯なので夕食のために離席したり、「お疲れさま」と店じまいしたりしている人も結構いますね。

仲山氏:皆さんの顔の画像が少しずつ動いていますね。

倉貫氏:PCのカメラに写ったものが、だいたい1〜2分おきに更新されて、今何しているかがなんとなく分かります。「集中して何か作業してるな」とか「離席中だな」とか、実際のオフィスのように様子が分かるようにしています。

 アイコンをクリックすればチャット機能で話しかけることもいつでもできます。Zoomボタンを押せば、すぐにオンラインミーティングも始められます。ただし、「今話しかけていい状態かどうか」を周りが判断できることが重要なので、みんなが自分の予定をこまめに共有するようにしています。例えば僕はさっき「17時半から取材。それまでちょっと走ってくるか」とつぶやいて、本当にジョギングしてきたところです。

 せっかくなので、集まれるメンバーに集まってもらいましょうか。オンライン上で声かけてみます。

篠田氏:おお、あっという間に3人、5人……集まってきましたね。

倉貫氏:実際に今いる場所はバラバラです。全員リモート前提で働いているので、社員は富山、愛知、岡山、沖縄など18都道府県に散らばっています。でも、仮想オフィスの中では一瞬で集まれるというわけです。

篠田氏:素晴らしい。そして、何やらずっと画面の右側がにぎやかですね。

倉貫氏:こちらは、社内で交わされている全員の会話がリアルタイムで全部出てくるコーナーです。「お疲れさま!」とか「ちょっと相談」とか、誰かと誰か同士の会話がここにどんどん表示されます。

仮想オフィスでも“ザワザワ感”を可視化する

仲山氏:Twitterのようなインターフェースになっているのも意味があるんですよね。

倉貫氏:ここに流れるのは全部読まなくていいという前提で、なんとなく目の端で眺めておくくらいのものです。通知も来ないので「すぐ反応しなきゃいけないプレッシャー」もありません。目的は、“オフィスのザワザワ感”を可視化すること。ここがずっとアクティブに動いていると、寂しさを感じにくいのです。