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eメールが職場に登場したときと似ている

篠田氏:お話を伺いながら懐かしく思い出したのは、「eメール」が職場に入ってきたときに、あちこちで勃発した珍事件です。当時、私は日本の職場から離れていたので、リアルに自分が経験したわけではないのですが、知人の当時の証言が象徴的でした。

 新しいツールの習得がうまいのはやはり若手で、それまで内線電話で調整していた会議の日時設定もメールで済ませる若いメンバーが増えていったそうです。ある日、会議の時間になったので席を立って部屋に向かおうとすると、「おい、鈴木、いきなりどこへ行くんだ?」と課長に呼び止められたそうで。

 つまり、それまで課長は部員が内線電話を使って「では水曜の10時にお願いします」と調整する声を聞き取ることで、全員の行動予定を把握していた、と。それがメールの登場によって、「どこへ行くんだ?」と摩擦が生じたという実話です(笑)。

 20年ちょっと前の話なので、この頃に若手だった人たちが今はマネジャーとなって部下を管理する立場になっている可能性が高いでしょう。「当時と同じことが起きている」と、eメールが職場に入ってきたときに、自分たちが当時の上司たちの反応をどう思ったかを振り返ってみると、気づけることもあるかもしれないなと思いました。

倉貫氏:確かに、eメールが職場に入ってきたときと、状況は似ていますね。

最初は快適だったけど、寂しくなってきた?

篠田氏:先ほどのお話に続けて、質問してもいいですか? リモートワークを始めてから実際に起きている現象の1つとして、気になっているのが「寂しい問題」です。

 前置きとして、通常の状況ではリモートワークを取り入れても人に会う機会はあります。人との接触が極端に少ない今の状況は、新型コロナの感染予防のため。だから、「リモートワーク=人に会えない」と考えるのはちょっと違うかなぁ、と思ってます。

 このことを頭に入れつつですが、在宅勤務推奨をわりと好意的に受け止めて「さっそくやってみた! これはいい!」と喜んでいた人たちも、1週間たつ頃には「毎日1人で仕事するの、ちょっと寂しいかも」「そろそろ人に会いたくなってきた」とつぶやくようになっています。

 これ、倉貫さんの会社でも起きましたか? 起きたとしたら、どう解決してきましたか?

倉貫氏:分かります。オンラインで同僚とつながって盛り上がっているときは楽しいんだけれど、会議が終わってZoomを閉じた瞬間、シーン……。突然の静寂がなんとも言えない寂しさを呼ぶんですよね(笑)。

 この「寂しい問題」は全員リモート化を進めるプロセスで、僕らも直面しましたし、乗り越えてきた問題です。その解決法をお話しする前に、「寂しい問題」に関連して、皆さんにぜひ考えていただきたい点がもう1つあります。

 「リモートって寂しい」と言う前は何を言っていたかを思い出していただくと、おそらく「リモートって集中できる」と言っていたはずなんです。

 「話しかけられないから仕事がめちゃくちゃはかどった」とか「無駄な会議がないから効率がいい」とか。集中できる環境条件としての良さを実感する人は多かったのではないでしょうか。

篠田氏:確かにそうですね。

倉貫氏:そこで気がつくべきことは、この“集中できる環境条件”はリモートだからなのか、という視点です。つまり、実はオフィスでも十分に実現可能なのではないか、ということです。

 例えば、個人が集中して作業できるスペースや時間帯のルールを設計すれば、オフィスでも同じ環境条件は再現できます。会社が本来やるべき整備はこれだったと、理解するのが正しいと思います。

篠田氏:なるほど! 大変納得です。

倉貫氏:寂しい問題の対処に話を戻しましょう。やはりこれは真剣に考えるべきです。「リモートだから寂しくなる」と決めつけるのは間違っていて、「リモートで働きながら、寂しさを解消するにはどうしたらいいか」を考えていくほうが建設的ですよね。

 この「寂しい」という感情をきちんと分析すると、“オフィスで働くことの本質的な価値”が見えてきます。具体的に「オフィスにいるからこそ得られることってなんだろう?」と考えてみるといいと思います。

仲山氏:「孤独なリモートワークになくて、オフィスワークにあるもの」を明らかにするということですね。