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「出社組」と「リモート組」の分断問題

倉貫氏:まず、リモートワークの導入を、「選択制」あるいは「許可制」にしている企業が多いことが気になります。「リモートワークをしたい人はどうぞやってください」という選択制や許可制では、うまくいかないと思います。

 よくあるのが、リモートワークを許可する立場の人がリモートワークをしないという状況。許可する立場の人は、部門長や部長といった“偉い人”ですよね。現時点で偉くなっている人たちは、たいてい「毎日オフィスに来て仕事をする」というスタイルで出世して今がある。だから、「真面目に仕事するって、こういうことだ」と信じているし、習慣として続けてしまう。

 偉い人が従来どおり毎日出社するのであれば、自然とその下で働く人たちは「部長が来ているんだから自分も出社するっきゃないでしょ」となるわけです。

倉貫義人氏 ソニックガーデン社長
大手SIerにて経験を積み社内ベンチャーを立ち上げ、2011年のMBO(経営陣による買収)でソニックガーデンを設立。全社員リモートワークを実践し、オフィスの撤廃、管理のない会社経営など新しい取り組みを行っている

篠田氏:うーん、目に浮かびますね(笑)。

倉貫氏:許可制によってリモートワークを働き方の選択肢の1つにすると、同じチームの中に「出社メンバー」と「リモートメンバー」が混在してしまう。その結果、起きるマイナス現象は2つあります。1つは、まず短期の相対比較によって「リモートのほうが生産性が落ちる」という誤った認識が広がってしまうことです。

 僕は“自転車理論”と呼んでいるのですが、駅まで20分かけて歩いている人の横で、もう1人が自転車に乗る練習を始めたとします。初めてなので最初はうまくペダルをこげず、転んだりよろけたりしてうまくいかない。隣で歩いている人からは「お前、何やってんだよ。歩いたほうが速くね?」と言われ、自転車に乗る練習そのものを否定される。けれど、ちゃんと練習したら自転車に乗れるようになる。うまく乗れるようになったら、スピードは劇的に速くなる。

 同じことがリモートワークの導入期にも言えます。初めて試す段階ではまだ慣れていないので不具合が起きる。それは当然なんです。初期の練習中に「オフィスにいるときより生産性が落ちているんじゃないか?」と指摘し、「リモートワークはうまくいかない」と決めつけるのはナンセンス。その段階を抜けた先の生産性が劇的に向上する状態をイメージすることが重要なんです。

仲山氏:今までの仕事のやり方は「オフィスにいることを前提として最適化されたチームワーク」なので、新たに「リモートでのチームワーク」を確立するために試行錯誤は不可欠です。大事なのは、それに伴うパフォーマンス低下を、全員が「成長に必要なプロセス」として捉えることなので、みんながイメージを共有しやすい自転車理論はすごく役に立つと思います。

リモート組が感じる「後ろめたさ問題」

倉貫氏:もう1つのマイナス現象は、出社メンバーとリモートメンバーが混在することによって発生する、「後ろめたさ問題」があります。

 「やってもいいよ」というような単なる働き方のオプションとしてリモートワークが始まると、たいていは「出社メンバーが多数派で、リモートメンバーは少数派」というパワーバランスが生じるんですよね。すると、どうなるか。

 少数派はいろいろな面で遠慮するようになるんです。リモートワークを“させていただいている”身分だから、ちょっとした不便を言い出すのをためらったり、議論に積極的に加わる気持ちがしぼんでしまったり。「どっちでもいいですよ。自己責任でリモートワークを選んでください」と会社が社員に言うのは乱暴だなと思います。

仲山氏:「全員リアルに集合してはいけない」という制約があるほうが、コミュニケーションの工夫が生まれやすいですよね。

 問題には2種類あって、既存の知識や技術で解決可能な「技術的問題(technical problem)」と、複雑な関係性の中で生じているので正解がない「適応課題(adaptive challenge)」に分かれるという考え方があります。この視点が大事だと思っていて、リモートワークを技術的問題だと捉えると、「効率が上がるって言うからやってみたけどうちには合わなかった」となります。でも、リモートワークが機能しない多くのケースは適応課題だからなんです。適応課題は“adaptive challenge”なので「うまくいくまでチャレンジするもの」です。

 僕のチームビルディングプログラムでは、適応課題への取り組み方を扱っています。みんなで1つのアクティビティーに取り組むことで試行錯誤しながらチームワークを確立していくプロセスを体験してもらっています。今回の新型コロナ対応は、いわばみんなで「リモートワーク導入アクティビティー」をやっていることになります。未知のお題について全員の関係性をどうチューニングするかが問われるので、「出社メンバー」と「リモートメンバー」が分かれ、かつ「出社メンバー側は従来のやり方を変えるつもりがない」という前提だとしたら、全体として1つのチームにはなれません。

 まずは「全員リモートで働きながら、今までと遜色ない成果を出すこと」というお題を設計するほうが、断然うまくいきやすくなります。