
日本を代表するプロダクトデザイナーの深澤直人氏。auの「INFOBAR(インフォバー)」シリーズや無印良品の製品などを手掛け、マルニ木工の椅子が米アップルの本社で採用されるなど、活躍の幅は世界に広がっています。深澤氏は今の日本の問題点を「豊かさ」や「幸せ」に対する鈍感さだと指摘。自分の生き様に美学を持つことが、これからの社会を成長させる原動力になると説きます。
(注:記事全文の閲覧、コメントの投稿は有料会員限定です)

1956年、山梨県生まれ。NAOTO FUKASAWA DESIGN代表、プロダクトデザイナー。1980年に多摩美術大学プロダクトデザイン学科を卒業し、同年セイコーエプソン入社。1989年ID Two (現 IDEO サンフランシスコ)入社、1996年IDEO東京オフィスを立ち上げる。2002年より現職。日本民藝館館長、多摩美術大学統合デザイン学科教授、21_21Design Sightディレクターなど日本のデザイン振興に貢献する多くの顔を持つ。良品計画デザインアドバイザリーボードも務め、デザイナーの立場から企業経営に参画する。(写真:吉成 大輔)
深澤さんはプロダクトデザイナーでありながら、良品計画のアドバイザリーボードを務めるなど企業経営にも参画しています。今の日本の企業経営や経済活動についてどのように感じていますか?
深澤直人氏(以下、深澤氏):今問題なのは、経済成長の結果が見えていないことです。例えば日経新聞に出ているグラフを見て「日本のGDP(国内総生産)は世界何位になった」ということは理解できる。でも、それは国全体の指数の変動を見ているに過ぎません。自分たちの生活のどこに経済の成長や停滞が反映されているのか。なかなか実感しにくいのではないでしょうか。
GDPが世界第3位で、これだけ頭のいい人がいて、ラグビーのワールドカップでも予選を通過した国。でも、「自分自身は幸せになっているのだろうか」という問いに立ち戻ってください。それは経済的に豊かになり高い絵画や時計を買えるようになった、という話だけでは語れません。豊かさに対する経験や実感が少なすぎるから、自分が豊かになっているかどうか分からないのです。
かつての経済成長期には、売上高がどこを抜いたとか、相対的に何位になったとか、必ず競争相手がいました。「マネされないような特許を取ろう」「世界1位になろう」というプライドが、日本経済をけん引していました。
でも今は、誰かとの競争ではなく「独り勝ち」の時代になっています。グーグルもアップルもみんな独り勝ちです。彼らがビジネスによって創造するのは、「どうやって自分たちの生活を良くするのか」「どうやって生活の豊かさに影響を与えるのか」という「生活美」です。社会のプラットフォームを変えて生活を豊かにしたい、そういう考えでビジネスをしています。
そうして彼らは、生活の豊かさを指標にしたプラットフォームを築き、その上で生きています。数字上の経済成長ではなく、実感として豊かさの経験を積んでいるのです。豊かさの実感により幸せの概念や定義が変わり、さらに豊かさを追求するような思考になるのです。
この記事は会員登録でコメントをご覧いただけます
-
「おすすめ」月額プランは初月無料
今すぐ会員登録(無料・有料) -
会員の方はこちら
ログイン
日経ビジネス電子版有料会員なら
人気コラム、特集…すべての記事が読み放題
ウェビナー日経ビジネスLIVEにも参加し放題
バックナンバー11年分が読み放題