日本には「目利き」が足りない

なぜ最初の飛躍が日本でなく、米国だったのでしょうか。「目利き」と関連するのでしょうか。

玉井氏:クールマッスルは、モーターを制御するコンピューターチップを1つの小さな箱に取り込んだのが特徴です。日本のお家芸である小型化と高性能化の両立です。人間に例えて言うと、一つひとつの筋肉が頭脳を持っているようなもので、滑らかで正確な動きを実現しました。1988年に起業して約10年かけて試作品を完成させました。

 とても良いものができたと思い、製品を売り込もうと、地元関西の電機大手パナソニックやシャープなどに持ち込みましたが、ほぼ門前払いされました。企業の規模が小さすぎたようです。

 起業当初は部品を買うのも苦労しました。「(銀行の)取引口座がないでしょ」というんです。当時は、現金で払うといっても口座がないと部品を売ってくれない。信用調査を受けないと口座はつくれないが、起業当初に信用なんてあるはずがない。日本橋(大阪)や秋葉原(東京)で部品を買って、作るしかなかったのです。

 あるとき、ふらりと来た部品メーカーの営業マンをオフィスにとじ込めた。「俺はこんなに世界を良くする商品を作ろうとしている、どうしても部品を売ってほしい」と2~3時間話しました。新人でしたが上司に掛け合って、許可を得てくれた。結局、保証金なしに売ってくれました。粋な計らいだったんだと思います。情熱がなければ、人は説得できないと思います。

 日本では、僕が作った製品を評価してみようという企業はほとんどありませんでしたが、一方、米国では状況が違いました。

 日本での取引先探しに困っていた僕に知人が「米シカゴの展示会に小さいけどもブースを出せる」と連絡をくれました。英語もしゃべれないまま渡米して、2m四方の小さなブースにモーターを並べました。

 すると、米航空宇宙局(NASA)や米ボーイングといった巨大企業がわんさかやってきて、「これはすごい」と言ってくれる。クレジットカード会社向けにカードの生産機械をつくる会社が、「実績があるのか」と聞くので、正直に「ない」と答えたら、「このモーターを使えばうちの機械は素晴らしくなる。誰も使っていないなら、俺が世界で最初に使ってやる」と言ってくれた。感動しました。

 これこそ今、日本に足りないといわれている目利きだと思います。本社はどこにあるのか、資本金はいくらか、従業員は何人か、何も聞かれなかった。製品が良いか悪いかでした。

2013年に安倍首相がマッスル本社を訪問しています。そのとき、介護ロボット「SASUKE(サスケ)」が注目されました。

玉井氏:厚生労働省の課長がSASUKEをたまたま見たのをきっかけに、安倍首相の来訪が決まりました。後で伝え聞くと、「カンが働いた」のだとか。安倍首相は「小さな会社で大きな事業をするのは大変ですね、全面的に支援します」と言ってくれました。

マッスルが開発した介護ロボット「SASUKE(サスケ)」
マッスルが開発した介護ロボット「SASUKE(サスケ)」

 それで開発を本格化しようと、経済産業省が推進する介護ロボット開発の補助金を申請しました。審査のヒアリングに行くと、私1人に対し、会議室には何十人もいる。介護現場の意見を聞きながら作りましたと話すと、「ここの角がとんがっている」「指を挟んだら危ない」と細かいことを言ってくる。そんなことを言っていたらものがつくれないというと、真ん中の偉いさんが、「キミたちが100%(安全)にしないと意味がない」というのです。

 最初から100%にならないから補助金を求めているのに。あまりに開発の現場を知らなすぎると部屋を出て行き、外にいた報道機関に思い切り文句を言いました。こんな姿勢で開発なんてできるはずがないと。申請は、なんとか通してくれましたが。

 開発は目標に向かって何回作り直すかが勝負どころです。どんな製品でも5回はやり直します。実験機、試作機、量産試作、第2次試作、そこまでやって様々な試行錯誤を反映してようやく量産になる。最初からマーケットに流せるものなんて作れるわけがないのです。

 さらに言うと、政府の補助金は、新興企業に対しては開発費用の3分の2しか出ない。1億円の開発で3300万円を用意できる企業はまれです。すると中堅か大企業しか応募できません。

 最近はベンチャーキャピタルという資金の出し手がいます。しかし、結局は人から借りたお金です。早期のリターンを求められ、収益化の時期や成果を相当厳しく突っ込まれる。技術屋は自分のペースで仕事ができず、大体ギブアップする。出資を受ける起業家のほうも、ベンチャーキャピタルの投資を「返さなくていい宝くじ」くらいに思っているのが問題です。出資を受けてお祝いするのはそのせいでしょうね。

 マッスルは自己資金で小さな資金を回して利潤を出して、できる範囲で投資してきたから成長も遅い。自分のしたいことをするために会社をつくったからサイズや成長速度に不満はないのですが、現代は革新が速いから経営や開発の速度も求められます。

 今も日本のファンドはリスクをとらなすぎます。「手堅い投資先」に何十社も集まるのは、目利きがいないんです。そして、お金を集める側にも「俺にはお金がないけど、俺はやれるんです」と表現できる人もいない。イスラエルの16歳を、そんな日本の人たちに見せてやりたいです。

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