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日本が再び成長するための一手を探るシリーズ「目覚めるニッポン」。今回は、モーター製造のマッスル(大阪市)の玉井博文社長。制御チップと動力源のモーターを一体・小型化した「クールマッスル」は正確で素早い応答性と滑らかな動きを実現したことで、医療機器から遠隔手術ロボット、有名テーマパークのキャラクター人形など幅広い分野で採用されています。ただ、その道のりには、会社の規模にこだわる商習慣や、中小企業に冷たい国の政策との戦いもありました。起業家が育ち、ものづくりが復権するためには、「勇気」と「目利き」が必要だと主張します。

玉井氏の提言を踏まえ、皆さんのご意見をお寄せください。

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玉井博文(たまい・ひろふみ)マッスル社長
1951年愛媛県生まれ。70年、松山工高卒。制御機器メーカー勤務を経て、88年にマッスル(資本金1110万円)を設立。モーターを制御するコンピューターチップとモーターそのものを一体化した「一体型ACサーボシステム クールマッスル」は、医療機器や工業製品、エンターテインメントなど様々な用途に活用される。モーター技術を生かして、2010年開催の上海万博で高さ15mの外壁を上り下りするロボット「夢ROBO」や、安倍首相が本社を訪問して注目を集めた介護ロボット「SASUKE(サスケ)」など手掛ける領域の多様さも特徴となっている。

日本経済の再生に新産業の開拓が必要との考えが浸透する一方で、起業家を育てるエコシステム(生態系)形成は十分とはいえません。36歳で起業した玉井社長は、日本に何が必要だと思いますか。

玉井博文氏(マッスル社長、以下、玉井氏):起業家の「勇気」、そして周囲の「目利き」が必要だと思います。印象的な出来事があります。2015年、安倍晋三首相のイスラエル訪問に同行したときのパーティー会場で、ウエーターが「日本はITが発達しているすごい国だ。僕を連れて帰ってくれ」と話しかけてきました。

 何歳だと聞くと16歳。「ソフトウエアのコンテストで優勝したから絶対に役に立つ」と言うんです。大学を卒業するまで待てと返事をしましたが、10分後にウエーター仲間を10人ほど連れて再び「交渉」にやってきました。結局、名刺を渡して別れましたが、未知の世界に飛び込み、自分の力でなんとかしてやろうという気概を感じました。マッスルでは海外からのインターンを積極的に受け入れています。若い人を応援したいからです。

 僕も人生の節目で勇気を発揮できなければ今はなかった。会社が軌道に乗るきっかけは、米国企業と人工呼吸器向けの電装品を開発したときです。人工呼吸器は気体の制御が鍵です。酸素と空気を混ぜて、人間の肺に出し入れする精密さと応答性が必要でした。社員や周囲の人は、「患者が1人でも死んだら小さな会社が吹き飛ぶ」と口をそろえましたが、押し切りました。結局、当時の最高峰だったドイツメーカーの2倍の性能が出て、その呼吸器は世界でベストセラーになりました。

 起業を目指す人には、自分の取り組みを自ら評価し、売り込みに行く勇気を持ってもらいたいです。ただ、医療機器参入に向けて、米国食品医薬品局(FDA)の認可をとりました。世界で通用する規格は、欧米です。残念ながら世界の中心は日本にはない。若い人には、世界に出かけなさいと言いたいです。