「エビデンスとロジックで議論しよう」
「大企業の圧力がある以上、中小企業の生産性向上は難しいのではないか」という声についてはどうですか。
アトキンソン氏:こうした指摘も同様です。確かにそういう事例、そういう業界があることは事実です。しかし全国360万社のすべてが同じ状況にあるわけではありません。私が社長を務める小西美術工藝社も中小企業ですが、下請けになることはめったになく、大企業の圧力などありません。
業種として生産性が低い、全国の美容室、飲食店、ホテルといったサービス業の多くが中小企業です。しかし、彼らは大企業の支配下にあるわけではありませんよね。コメントで想定されているのは建設業や製造業の一部だと思いますが、ご自身のよく知る例を一般化し過ぎているのではないでしょうか。1つの事例をもってすべてを語ろうとする。これは日本人の弱点だと思います。私はエビデンスとロジックで議論しようと訴え続けてきました。

政府はこの数年、全国平均で年3%程度の割合で最低賃金を引き上げています。それでは不十分なのでしょうか。
アトキンソン氏:重要なのは、引き上げ幅の大きさよりも引き上げを継続することです。ただ、消費増税など景気の下振れ要因も考慮すると、私としては毎年5%程度の引き上げが望ましいと考えます。諸外国との比較では、日本特有の人口激減による経済への悪影響も考慮すべきです。
また、日本では最低賃金を都道府県別に定めていますが、これは地方から都市部に移動するインセンティブを若者に与え、東京一極集中が進む要因となっています。厚生労働省の中央最低賃金審議会は、都道府県ごとの企業の支払い能力に合わせて引き上げ幅を決めているので、人口が減った地域では最低賃金を低く抑えます。その結果、さらに都市部への人口流出が進むという悪循環を生み出してしまっているのです。
一方、例えばイギリスやドイツでは、地方創生を進めるために最低賃金を全国一律に設定しています。全国一律とすることで地方経済が多少混乱するリスクはありますが、このままでは地方が消滅していくだけです。
この記事は会員登録でコメントをご覧いただけます
-
【締切迫る】初割で3月末まで無料
今すぐ会員登録(無料・有料) -
会員の方はこちら
ログイン
【初割】月額プランが3月末まで無料
人気コラムも、特集もすべての記事が読み放題
ウェビナー【日経ビジネスLIVE】にも参加し放題
日経ビジネス最新号、11年分のバックナンバーが読み放題