
「適材適所」より「適所適材」
グローバルでの戦い方を変えていこうというお話だと思いますが、そうした変革をけん引していける人材をどのように獲得していきますか。
西井氏:変化を前にすると、どのような人材がほしいか、どのようなスキルを身につけてもらうか、という議論になりますが、私は順序が逆だと思います。まず、会社の仕事、業務の進め方をデジタル時代に適合するように、あるいは誰でも働けるように変えてしまうことが先決でしょう。
まず、組織の枠組み、構造を変えてしまうということですか。
西井氏:そうです。まずは組織そのものを変え、そこに適材を配置する。適材適所ではなく、「適所適材」であるべきです。米国などのグローバル企業も、それぞれの仕事に適材をはめるために世界中から人材を受け入れることになり、結果としてダイバーシティーを進めることになりました。あくまでも、どのような会社でありたいのか、マネジメント層が決める話だと思います。
先ほど話したECを活用した先端のビジネスへ、全てを一気に移行できるわけではありません。ローカルのトラディショナル・トレードに張り付くビジネスも引き続き重要です。一方、新しい事業を進めるには、その体制をつくり、必要な人材を社内外問わず採用して配置すればいいのです。
私は社長になってすぐの2016年4月に、基幹職の人事制度を完全なジョブグレード(職務等級)制に変えて、まずポストがあって、そこに適材を配置できるようにしました。基本的に欧米のジョブ型と同じにしたのです。
最初は、既存の組織の中の配置をグレーディングしただけでしたが、あれから3年がたち、だいぶ組織の形も整ってきました。各ポストに就く人材が5~6歳ほど若返りが進む一方、実力のあるシニアが再び以前と同じポジションに就くような敗者復活戦のようなことも起きています。
西井さんは人事を担当なさっていた頃から、ジョブ型への移行は念願だったと聞いています。
西井氏:私は、人事部に配属された2002年からこの課題に取り組んできました。きっかけは、2000年にブラジル味の素がジョブグレード制を導入したことです。当時、ブラジルでは欧米流の人事制度が普及していました。そうした欧米流の会社と比べるとブラジル味の素はグレーディングが明確でなく、入社してもキャリアが見えにくいとして優秀な人材に敬遠されていました。
この状況が、ジョブグレード制を入れたことで変わったのです。当初、ブラジル味の素にジョブグレード制を入れると人件費が跳ね上がりました。極端に言えば、同じグレードの人件費であれば、日本よりブラジルの方が高いですから。しかし、結果的には優秀な人が残ってくれるようになりました。一方、パフォーマンスが落ちた人はいられなくなって、自ら辞めていきました。
ジョブ型で適所適材の人事制度にすれば、組織は活性化するということを目の当たりにしたのです。私は、人事部からこれらの動きを見ていたので、ジョブグレード制は絶対に効果があると確信していました。
ジョブ型に移行するには、それぞれのポストで職務記述書(ジョブディスクリプション)を明確にする必要があります。人事部にとっては、とても手間のかかる作業です。
西井氏:それは、経営が決断すればいい話です。私たちの場合、経営会議のメンバーに海外経験者が圧倒的に増えたことが、改革をできた大きな要因です。経営をどうしたいのか、何を目指すのかという、経営の意思が大切です。
ジョブグレード制を導入したことで、必要な人材は社内外から登用できる体制が整っています。R&D(研究開発)やM&A(合併・買収)、デジタルマーケティングなどで、事業の変革に応じて必要な人材を社外から登用してきた事例はこれまでもありました。実は、最後の課題が、働き方改革でした。
社長就任当時の社員の平均年間労働時間は2000時間弱。世界基準で考えれば、そのような職場に優秀な人材は来てくれません。そこから欧米企業並みに労働時間を減らそうと働き方改革に取り組み、18年度に年間1800時間程度まで削減できました。受け皿はできたので、あとはやるかやらないかです。
先ほど、海外売上比率をもっと上げていかないと成長できないと話しましたが、グローバルに成長していきたいのであれば、ここは変えなければなりません。今、私たちは経営会議のオフィシャル言語は英語にしました。同時通訳も付けていますが、会社を変えていくには、経営が変わっていかなくてはならないのです。
西井さんは、日本の最大の課題は生産性向上だとしたうえで、国内市場はデフレマインドが染みついていることが悪循環を招いていると話します。高付加価値製品をそれに見合う価格で販売し市場を広げていくことが難しく、その結果、賃金もなかなか上がらないというわけです。そして、生産性向上のためにも、日本製品により高い価値を認めてくれる海外市場の攻略が欠かせないと主張します。
そこで、皆さんにお聞きします。
「デフレマインド」がもたらす悪循環から抜け出すには、企業は何をすべきでしょうか
皆さんのご意見をお寄せください。
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