
日本が再び成長するための一手を探るシリーズ「目覚めるニッポン」。今回は、LIXILグループの瀬戸欣哉社長兼CEO(最高経営責任者)。瀬戸氏は昨年10月末に創業家の潮田洋一郎氏と対立し解任されましたが、今年6月に株主に支持されて現職に復帰しました。同社のガバナンス不全を正すことを株主に訴え、再び経営のかじを握ることになった“プロ経営者”が考える日本再生の一手とは何か。瀬戸氏は、中高年男性中心のいびつな幹部社員の人口構成を改め、「公正な」ルールを導入することだと主張します。
瀬戸氏の提言を踏まえ、皆さんのご意見をお寄せください。
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![<span class="fontBold">瀬戸欣哉[せと・きんや]</span></br/ >1960年生まれ。83年住友商事入社、2000年に工具のネット通販MonotaRO(モノタロウ、当時は住商グレンジャー)創業、06年マザーズ、09年東証1部上場。16年LIXILグループ社長兼CEO、18年10月末に解任されるも19年6月に株主の支持を得て現職に復帰(写真:的野弘路、以下同じ)](https://cdn-business.nikkei.com/atcl/forum/19/00024/092700034/p1.jpg?__scale=w:500,h:333&_sh=0c50a80730)
住友商事にサラリーマンとして勤務した後、工具のネット販売を手掛けるMonotaRO(モノタロウ)を創業し、そして今、一度は解任されたLIXILグループの経営を再び託されています。“プロ経営者”として、今の日本企業の課題はどこにあると思いますか。
瀬戸欣哉氏(LIIXLグループ社長兼CEO):これはなかなか答えるのが難しい問題ですね。というのは、僕が日本中の企業を知っているわけでも、それぞれの企業の苦労を知っているわけでもありません。ですから、提言といっても、あくまでも僕が自分の経験を通じて考えている一般論としてお話ししたいと思います。
日本企業の課題はどこにあるのか――。僕は、会社というのは人に例えると分かりやすいと思っています。
最近、企業の一番の目的は何か、という問いに対して、「利益を最大にして株主に還元すること」という考え方が広がっています。これは人に例えると、「毎日楽しく生きていくこと」といった考え方と同じだと思います。しかし、本当にそれだけでいいのかというと、実はもっと大切なことがあります。
人だったら、毎日楽しく生きていくためには、健康でなければなりません。それを企業に当てはめると、会社を潰さないように、持続的な経営をしなければいけないということです。毎日脂の滴るステーキを食べていたら楽しいかもしれないけれど、それだけだと健康を害してしまう。10年先、20年先を考えて、健康に気を使った食事をしなければいけませんし、お酒も控え、運動もしなければなりません。
企業も同じです。株主は、いつでも株を売り買いできます。そのため、株主としては、企業に対して短期的にキャッシュを全部吐き出させた方がもうかるわけです。しかし、それは「最上級のステーキを食べさせろ」と言っているのと同じです。それが続けば、人と同じように、企業も健康を害してしまう。
さらに大切なことがあります。それは「生きる目的」です。人なら、健康で楽しく生きることだけより、目的を持って生きた方が人生はより豊かに、充実したものに感じられます。会社もそれと同じで、目的が最も優先されるべきだと思います。
既に誰もが気が付いていることだと思いますが、今、成功している企業はお金をもうけるために物やサービスをつくっているというより、最初に世の中に求められる物やサービスをつくって、結果的に利益を得ています。グーグルもフェイスブックも最初、世の中に受け入れられたときはマネタイズ(収益化すること)ができていませんでした。しかし、価値あるものを提供し続けたことで、後からマネタイズできるようになりました。
目的が明確でない事業に対して、従業員は一生懸命になれません。お客さんも差異化された利益を与えてくれません。そうした差異化された利益をお客さんから与えてもらえない企業を、株主は永続的に支えてくれません。
日本企業の一番の問題は、長い目で見て、しっかりとした目的を持って、健康でずっと楽しんでいけるような状況になっていないことだと思います。しかも、対処しなければならない課題が明らかになっているのに、誠実に向き合っていないのではないかという気がします。
ずっと前から「何が一番正しいことですか」「自分は何をやるべきですか」と問われていて、本当は答えが分かっているのに、ずっと言い訳をしてきたというのが、今の日本企業の姿ではないでしょうか。
不健康な生活をしていて「何をすべきですか」と問われたとき、「運動をしないといけない」と分かっているのに、やっていない。理由を問われても、「いや、面倒臭いから」としか答えられない。そんな状況です。しかし、本当に今、やるべきことを考えたとき、痛みを伴ったとしても、日本企業はこれまでのシステムを変えていかなくてはなりません。