
読者とともに日本の再成長への一手を探るシリーズ企画。今回は、塩野義製薬社長の手代木功氏に話を聞きます。48歳で社長に就任した手代木氏は、塩野義製薬を高収益企業へと大改革しました。日本製薬団体連合会の会長などを歴任し、業界を俯瞰(ふかん)してきた手代木氏は「国民皆保険制度には限界がくる」と警鐘を鳴らします。
手代木氏の提言について、皆さんのご意見をお寄せください。
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1959年12月宮城県生まれ。82年東京大学薬学部卒業、塩野義製薬入社。87年米国ニューヨークオフィス駐在。91年に帰国し開発渉外部に配属されるが、94~97年カプセル会社への出向で再び米国駐在。帰国後、社長室勤務を経て99年経営企画部長。社長の塩野元三氏(現会長)と二人三脚で塩野義の構造改革を進める。2004年医薬研究開発本部長、06年専務執行役員、08年4月社長就任。(写真:的野弘路、以下同じ)
手代木さんは、国民皆保険制度が維持できないことを前提に、これからの社会制度や製薬業界のモデルを変えていかなければいけないと主張されています。そもそも、現状の何が問題なのでしょうか。
手代木功氏(塩野義製薬社長、以下、手代木氏):海外に住んでいた方なら実感できると思いますが、日本の国民皆保険制度は世界に誇る制度です。現物給付をベースにしながら、国民全員が安心して自由に医療を受けられる、夢のような制度と言っていいでしょう。
問題は、日本でこうした認識がほとんどないことです。米国や中国、欧州を見渡しても、こんなに自由に病院にアクセスできて、しかも自分が選んだ先生に診察してもらえる環境はありません。よほどの例外がない限り、診察は全部保険でカバーされています。しかも、診断に必要なキットや、処方されている薬剤に至るまで、全てがその範囲です。
ただ、実態としては薬剤費も含めて医療費は伸び続けています。少子高齢化が進む中、既に年間の医療費は40兆円を突破し、2040年には66兆円に達するという試算もあります。その国民皆保険制度が、どう成り立っているのか、誰がお金を負担しているのか、あまりにも誰も議論しなさすぎではないでしょうか。
社会保障費のみで赤字国債を連発しているわけではないですが、かなりの部分は社会保障を何とか維持・発展させるために使ってきたわけです。その対価として負担と給付のバランスが今のままで本当に成り立つのかということを議論しないといけないと思います。
ある程度前年より国債発行額を抑えられているので、抜本的な改革の議論が進みません。今年はその話は横に置いて、来年以降にしよう、という話をずっと続けてきているのです。みんな嫌がっているわけですよ。この話を持ち出すことを。だけど、今の状況は若い人たちの夢を潰しているに等しいと思います。
国民皆保険制度の持続性、持続可能性を本気で議論しなければいけません。社員と話しても、若い人たちは日本の将来に夢を抱けていないのだなと実感します。この国で頑張っていこうと話しても、「本当にこの国は大丈夫なのか」とすごく心配している若い人たちが多い。
そうした若い人たちに、私たちの世代は「この国は何十年後でも大丈夫だ」と言えるでしょうか。「いや、実はたぶんダメだよね」「社会保障はたぶん崩壊するわ」。そう考えている人が多いと思います。若い人たちからすれば、「じゃあ、私たちはどうしたらいいんだ」、という話です。
日本の若者たちの現状は、このまま進んでいったら必ず崖から落ちて死ぬぞということが分かっていながら、「いいからそのまま歩きなさい」と言われているようなものです。だから、やはり子供たち、孫たちの世代のことを考えると、「もう、今までのやり方は限界じゃないか」という思いがあります。
ある意味、我が国はうまくいき過ぎて、国民皆保険制度が空気のようになってしまっています。だから、誰もそのありがたみを認識していません。それは非常に大きな、原点としての問題だと思います。
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