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日本が再成長するための「この一手」考えるシリーズ企画。今回は日本労働組合総連合会(連合)の神津里季生会長の提言。神津会長は、長期安定雇用を維持していくためにも、しっかりとしたセーフティーネット(安全網)をつくり、雇用の流動性を高めるべきだと提言します。そのためにも、ミドル・シニア層は経営に飼い慣らされてはならず、もっと声を上げるべきだと主張します。

神津氏の提言を踏まえ、皆さんのご意見をお寄せください。

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神津里季生氏。日本労働組合総連合会(連合)会長。
1956年東京都生まれ。東京大学教養学部卒業後、新日本製鉄(現・日本製鉄)入社。98年、新日本製鉄労働組合連合会書記長、2002年同会長。06年日本基幹産業労働組合連合会(基幹労連)事務局長、10年同中央執行委員長。13年、連合事務局長。15年から現職。(写真:村田和聡、以下同じ)

トヨタ自動車の豊田章男社長などが「終身雇用はもう限界」といった発言をして、ここにきて改めて、いわゆる「日本型雇用」を見直そうという機運が高まっています。この状況を、どう見ていますか。

神津里季生氏(連合会長、以下、神津氏):経団連の中西会長を含めて、各氏が終身雇用のどの部分を指して言っているか、文脈によって意味が変わってくると思います。しかし、いずれにしても、影響力のある立場にある人には、どういう捉え方をされるか注意して発言をしてほしいところです。

 言葉としては、「終身雇用」というより「長期安定雇用」が適切であると思っていますが、そもそも、それが成り立っているのは大企業中心で、雇用労働者の7割が働いている中小零細企業は実態として、そうなっていないところがかなりあるのではないでしょうか。一方、過去20年で、いわゆる「非正規雇用」の労働者の、雇用者全体に占める割合が2割から4割に増えました。この不安定で処遇条件が悪い雇用形態が増えてきたことこそが、今の日本の雇用システムの大きな問題です。

 本来、雇用の在り方は企業がそれぞれの労使関係の中で工夫してつくるもので、時代に応じてその時々の問題意識は違うと思います。私たちとしては長期安定雇用が望ましいと考えています。ただし、それは1つの職場で働き続けるという意味だけで限定するものではなく、様々なパターンがあって良いと思います。望ましい姿は、しっかりとしたセーフティーネットがあって、流動性も高い雇用の在り方です。

 日本経済は、雇用の流動性が低いことが災いしています。

 この20年、日本ではデフレが続き、国際社会において置き去りになりました。その中で、賃金は上がらないばかりか、全体平均で見ると下がっています。しっかりとした労使関係の下で賃金制度を構築してきた大企業の下がり幅の平均はわずかですが、労使関係が脆弱な中小零細企業の賃金は大きく下がっています。結果的に、大企業と中小零細企業では、労働者の待遇格差が大きく開いてしまいました。これは、経済的にも極めて大きなマイナスです。

 安倍政権は、物価を上げて、賃金も上げようとしています。これ自体は正しい方向性です。働き方改革も含め、これまで私たちが主張してきたことが実現しつつあることについては評価しています。しかし、世の中全体では、賃上げの流れは全く本物になっていないのが実態です。

 こうした賃上げや働き方改革の流れが進んでいることに対して、事象だけを捉えて経営者は身構えているところがあるかもしれません。しかし、日本は20年間、世界の潮流に取り残されて、本来やるべき改革をしてきませんでした。今こそ、置き去りにしてきた課題にしっかり取り組んでもらいたいと思います。

非正規雇用が増えて、今、40歳前後になっている就職氷河期世代は雇用の流動性が低いことで厳しい状況に置かれています。本来は、こうした世代もチャンスを得られるような流動性が高い社会をつくるべきだということですか。

神津氏:おっしゃる通りです。きっかけは、1995年に当時の日経連(日本経営者団体連盟)が打ち出した「新時代の『日本的経営』」というリポートです。当時、この提言書を作った人たちに、今日起きているような格差が大きい状況を生み出すつもりがあったとは思いません。しかし、97年にアジア通貨危機が起き、その後のIT不況も重なって、経営者は背に腹はかえられないと非正規雇用に飛び付き、苦境を乗り切ろうとしたのです。