スティグリッツ氏:私から見ると、日本はすでにそうしたイノベーションを実践していますよね。どうやって高齢者の健康を機械でサポートするかとか、よりモノを正確に計測できる道具を開発するとか。これは、良い意味で「破壊的」ともいえると思います。どこに住んでいようとも、高齢者に健康的な暮らしを提供できるのです。

社会の生産性を高めるイノベーションは、「破壊的」ではないものの、新しいイノベーションとして世界に発信できると。

スティグリッツ氏:間違いありません。確かに日本の高齢化は大変深刻な問題です。しかし日本が、その環境を生かしてヘルスケア(医療保険)を新しい機械や技術で高齢者に届ける方法を開発できたら、世界にとっても恩恵となります。

日本では社会保障制度を誰がどうやって支えていくのかが重要な問題になっています。誰が、どう老後の生活を守るべきですか。やはり政府が大きく介入すべきですか。

スティグリッツ氏:市場主義では適切な弱者保護ができないと思います。

 私は米国に詳しいので米国の例で話します。(公的年金のほか)米国で民間企業が販売している個人年金は、取引コストが非常に高いです。急激なインフレに対する保障はないし、国民全員の賃金水準が上がっても、給付額は40年前に受け取っていた賃金の水準に依拠しなければならない。これでは、絶対的貧困ではなくとも、相対的貧困に陥ります。

 米国では自力で老後に備えるための取引コストが高く、高齢者が搾取されている。だから政府がもっと公的な選択肢を与えるべきだと提言しました。強制ではありませんが、定年までにもっと蓄えたいと思えば、その分を社会保障年金制度に支払って後で受け取ればいいのです。

 私の提言は確定拠出年金のようなものですが、支払う相手が政府なのがポイントです。後でよりたくさん受け取りたいのであれば、もっと政府に拠出すれば、もっと後で受け取れるというものです。給料の6.5%程度を天引きし、引き去られた分に関して後で受け取るのが現在の制度です。私が提案するのは、もし定年後のためにもっと備えたければ、さらに0.5%分を自ら政府に拠出するという方法です。そうすればその分、老後に多めに受け取れます。

 規定より多い備えを望むなら、自分の意思でそれが得られる。しかしそれはほかの誰かからお金を「盗む」のではなくて、もっと備えがほしい人が拠出するのです。

社会全体が生産性を高めることにより生活が向上してきた、と著書『スティグリッツのラーニング・ソサイエティ 生産性を上昇させる社会』(東洋経済新報社)に書いていらっしゃいます。今、日本は生産性において世界で見劣りし、経済も長らく停滞しており、もう成長はできないのではないかとさえ感じます。日本にもまだ成長のチャンスはありますか。

スティグリッツ氏:はじめに、経済とライフスタイルは、地球の限界と地続きにあるということを理解することが大事です。地球に無理はさせられません。そうした文脈における成長のチャンスはないでしょう。

 今後どうやって生きていくのか考え、ライフスタイルを整えていく必要があります。今から、遅くとも20年以内に暮らし方を変えたほうがいい。

 生活水準の向上を考えるとき、より重要なことは(モノではなく)「どう生きるか」です。より二酸化炭素排出量を減らすためにどう生きるか、食べ物をどう改善し、どう生活するか、エネルギーをどう節約するか、どうやって移動し、公共交通をどう整備するか。公共交通機関がきちんと整備されていれば、車を所有する必要はありませんからね。

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