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 第3次AI(人工知能)ブームのけん引役であるディープラーニング(深層学習)研究の日本における第一人者の1人、松尾豊・東京大学大学院教授に日本および日本企業が苦境を脱出するための条件を聞いた。松尾氏は「AIなどの先端技術に取り組む優秀な若者を口出しせずに支援すべきだ」と提言する。

松尾豊[東京大学大学院教授]
2002年東京大学大学院博士課程修了。工学博士。米スタンフォード大学客員研究員などを経て、19年4月から現職。ディープラーニング(深層学習)をはじめとするAI(人工知能)研究の第一人者の1人として知られる。19年6月にソフトバンクグループの取締役に就任。(写真:山下裕之、以下同じ)

自動車や産業用ロボットなど一部の産業を除けば日本企業の存在感は低迷し、AIのビジネス活用でも世界に比べて大きく出遅れています。低迷状態から脱出するには何が必要でしょうか。

松尾豊・東京大学大学院教授(以下、松尾):これまで日本企業の経営者に対して、ディープラーニングのビジネス活用に取り組むように呼び掛けてきましたが、一部の企業を除いて変わる気配はあまりないですね。デジタルトランスフォーメーション(デジタル技術による改革)に取り組むとか、CDO(最高デジタル責任者)を置くとか、パナソニックのように米国シリコンバレーで活躍している人材を連れ戻すとか、何かちょっとあがこうという感じはあります。いいことだと思います。でも結局、企業経営者が最新の技術を理解しようとしない状況は以前と変わっていない印象を持っています。

変わらないのは、どこに原因があるのでしょうか。本来、技術と経営は切っても切れないものです。技術を活用してイノベーションを起こし、世の中の課題を解決するというのが経営だと思います。

松尾:いろいろな側面があると思いますが、変わらないことをみんなが望んでいるということです。ある意味、経済成長せずに緩やかに停滞・衰退していったほうがいいと思っているわけです。資産の大半を持っている高齢者からすると、経済成長せずにインフレにならない限り、持っている資産が減らないからです。

 若い人に活躍されると、逆に自分の立場が相対的に下がってしまうから、今のままでいいやというふうに多くの人が心のどこかで思っているのではないでしょうか。そのことが今の低迷をつくり上げているんだろうと思いますね。

なるほど。

松尾:国でも企業でもそうです。成熟して老齢になって変化を望まなくなるのはしょうがない面がある。それに対して、若い人が新しいことをやり始めて急激に成長し、経済が伸びていくわけです。だから大企業がイノベーションを起こすというのは厳しいのではないかと思います。