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 バブル崩壊後の「失われた30年」の間、グローバル市場における競争力が落ち続け、革新的なイノベーションが起こらなくなって久しい日本。今回の「目覚めるニッポン」では、日産自動車で長年COO(最高執行責任者)を務め、2015年から産業革新機構(現INCJ)の会長を務めてきた志賀俊之氏が、再成長へのこの一手を提言します。

 志賀氏は、「量を追い求めるべきでなかったのに、変えられなかった」という日産時代の反省を踏まえ、「大企業は今、変わらなければいけない」と主張します。日本の産業構造や自動車業界の未来について話を聞きました。

皆さんのご意見をお寄せください。

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志賀俊之(しが・としゆき)
INCJ会長。1953年生まれ。76年、大阪府立大学経済学部卒業、日産自動車入社。2000年常務執行役員、2005年COO(最高執行責任者)。2013年副会長。2015年、産業革新機構会長、2018年から現職。日産自動車CEO(最高経営責任者)だったカルロス・ゴーン氏のもと、経営改革を支えた。(写真は陶山勉、以下同)

2015年から会長を務める産業革新機構(現INCJ)はスタートアップ企業を育て、日本の産業競争力を高める使命を伴って発足しました。就任から4年がたち、手応えはどうですか。

志賀俊之INCJ会長(以下、志賀):INCJは、オープンイノベーションを通じて次世代産業を育成することをスローガンに掲げている。特徴のある技術力と成長力のあるベンチャー企業を発掘し、経営資源を豊富に持つ大企業とマッチングさせることで、産業を活性化させる取り組みを進めてきた。

企業にまん延する「やってますポーズ」

 だが残念ながら、これまでに大きな成功例はないのが実情だ。大企業も経団連や国の掛け声のもと、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)をつくるなどして、経営マインドの変革に乗り出している。ただ、その一方で自前主義を捨てる覚悟はなく、本気でオープンイノベーションを取り入れようとはしていない。みんな横並びで「やってますポーズ」をとっているようにも見える。

 実際、大企業が技術課題の6割を社内、7割をグループ内で解決しているといったデータもある。エンジニアはどうしても内製の技術に引きずられる。経営者が社内の反対を押し切ってでも外部にある先端技術をモノにする覚悟を見せない限り、この流れが変わることはないのかもしれない。

日本は米国、中国に次いで世界3位の研究開発費を使っています。しかし、長らく、世界をリードする革新的な製品や技術を生み出せていません。

志賀:世界知的所有権機関(WIPO)などが毎年発表している世界イノベーション指数を見ると、日本は15位にとどまっている(2019年)。研究開発費に対する効率が悪すぎる。この大きな要因が、まさに大企業の自前主義、総花主義、横並び主義だ。

 大企業は、同業他社が新しいことを始めるとみんな不安になって、横並びで同じことをし始める傾向が過去から続いている。半導体、液晶パネル、リチウムイオンバッテリーなどはその惨憺(さんたん)たる歴史だ。日本としては総額で相当な研究開発費をかけてきたはずだが、各社が別々に同じような技術研究を手掛けたことで投資が重複し、効率的な開発ができずに中国や台湾、韓国に敗れた。

「上から目線」で社外と連携が取れない大企業

 大学との共同開発でうまく連携が取れていないのも、大企業の自前主義が障害となっている。大企業も頭では、社内だけのリソースに頼るのは難しいことはわかっている。ただ、いくらオープンイノベーションが必要だと理解しても、行動が伴わない。

 大企業がベンチャーを取り込んでうまく生かした例は、KDDIが17年に買収したソラコムくらいではないか。もはや社内の研究所、商品開発センターでの縦軸の開発で通用する時代ではないのだが。ベンチャー、大学、大企業が三位一体となったエコシステムができていないことは、日本の産業競争力を押し下げる原因となっている。

ベンチャー企業の技術水準が、大企業を動かすまでに至っていないのでしょうか。

志賀:そういうことではない。例えば、INCJが投資するベンチャーの技術を大企業の工場に持っていくと、実際に工場で働いているエンジニアが驚き、刺激を受ける。彼らが思ってもみない発想が含まれているからだ。

 それより、例えば大企業とベンチャーのマッチングイベントを開いても、大企業から出席するのは役職定年した人や経営企画の人などで、意思決定する人にまで情報がきちんと届かないことが影響している。さらに、大企業側の「上から目線」の態度にも大いに問題がある。そもそも、大企業にはベンチャー企業をパートナーというより、格下扱い、ベンダー扱いする風潮がある。