変革を成功させるうえで最も重要なのは「タイミング」

会社の変革を成功させるうえで、最も重要なことは何だと思いますか。

リーブス氏:最大の成功要因は、タイミングです。例えば、業績がいい会社を変革することは、一般的に容易ではありません。企業は必要に迫られたときにしか変革に乗り出さないものですが、多くの場合、それでは手遅れです。

成功するには先回りが必要です。しかし、それが難しい。なぜなら、経営のモノサシである業績数値は過去を測定する指標だからです。未来への備えにはなりません。「業績がいい」ということは、多くの場合、前任社長の経営が良かったからでしょう。破綻する直前に記録的な利益を計上する企業も少なくありません。

 業績はもちろん重要ですが、企業が破綻してしまっては意味がありません。現在のように非常に浮き沈みの激しい時代には、自然界のように業績よりまず、生存戦略が重要なのです。実際、米国ではかつて70年ほどあった企業の平均寿命が、今ではその半分ほどにまで短くなっています。人類の寿命は延びているのに、企業の寿命はどんどん短くなっています。つまり、不安定な時代には、劇的な変化に耐えられるよう経営の弾性を高めなければならないのです。

「規模」より「学習速度」が競争力を左右

変化への対応力を企業が高めるには、何をしたらよいのでしょうか。

 それには、多様性が欠かせません。変化に1つの方法でしか対処できないと、それがうまくいかなかったら死んでしまいます。ジェンダー、人種の多様性だけではなく、認識や経験で多様性のある人材を採用する必要があります。決して、全員に同じ考え方を強制してはなりません。

 組織の構造を柔軟にし、学習速度をもっと上げる必要があります。今の組織の多くは100年以上前の社会学者、マックス・ウェーバーの時代から続く官僚的な組織です。ウェーバーは、「官僚制」をネガティブな意味で使ったのではなく、組織を効率的に運営する方法として考えていました。

 官僚的な組織は、事業環境が安定的なときにはうまく機能します。アダム・スミスの「国富論」がピンの製造工場を例に示したように、分業を進めて労働者一人ひとりが仕事を分担し、全体としてより大きな仕事を成し遂げるというモデルは非常に効率的です。

 しかし、変化の時代にはそうはいきません。組織には変化に対応する柔軟性が必要になります。そして、ものごとを俯瞰(ふかん)して総体的に学ぶことも必要になります。それには、部門の壁を取り払わなければなりません。

人間よりも技術がうまくやれることには、積極的に技術を活用すべきです。そのためには、技術に何ができるか、どんどん学習していかなければなりません。私たちはかつて、規模の大きさを競い合ってきました。規模が大きければ、様々なコストを下げられるからです。しかし、これからは規模ではなく、学習の速さを競い合うことになるでしょう。

 学習の速さが競争力を左右するのは、技術分野だけではありません。市場の変化や顧客の変化を競合よりいかに速く学ぶことができるかが、これまで以上に重要になると思います。

 最後に1つ、重要な視点を付け加えるとすれば、それが「エコシステム(生態系)」です。これまでは様々な資産や機能をどれだけ自社で抱え込めるかという競争でした。その点で、巨大企業ほど有利だったわけです。しかし、これからはすべてを自社で抱え込もうとするのではなく、多様な企業が集まってお互いの資産や機能を活用し合い、ともに成長していくエコシステムをどのように築いていくかという競争になるでしょう。全てを自社で抱えるよりも、変化に対する柔軟性を確保でき、リスクを減らすことができるからです。

 私は、日本は闘争心を再び取り戻すことができると思います。冒頭にお話しした通り、人口減少などの大きな変化は始まっており、多くのビジネスパーソンはそれに気が付いています。リーダーや政策立案者が直面する課題をしっかりと議論すれば、国家レベルで危機感を醸成できるはずです。

 リーブスさんは、異なる戦略や組織運営が求められる既存事業と新規事業の両方をうまく経営する「両利きの経営」が、これから重要になると指摘します。イノベーションを起こすためにオープンイノベーションなどによって新規事業を育成しようという企業が増えていますが、果たして、こうした取り組みを成功させるには何が必要でしょうか。

 そこで、皆さんにもお聞きします。

 「両利きの経営」を実践する上で、どのような課題と解決策があるでしょうか。

 リーブスさんの意見を踏まえて、皆さんのご意見をお寄せください。

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