野口悠紀雄氏は日本を代表するエコノミスト。『戦後経済史 私たちはどこで間違えたのか』『日本経済入門』『世界経済入門』など数々の著書がある。

 野口氏は、「今のまま進めば、2040年には中国が日本より豊かになる。このとき、何が起こるか。日本市場は中国企業に蹂躙(じゅうりん)される」と説く。

 そうならないために野口氏が重視するのが大学教育の改革だ。イノベーション(技術革新)を生み出す仕組みの再構築が急務と語る。野口氏の視点を踏まえ、皆さんのご意見を募集します。

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平成が終わり令和に入った日本は今、どのような状況に置かれているのでしょうか。

野口:今の状態が続けば、2040年には、中国が日本より豊かな国になります。1人当たりGDP(国内総生産)で、中国が日本を追い抜く。

 現在の中国の1人当たりGDPは約9600ドルで、日本(約4万ドル)のおよそ4分の1にとどまります。しかし、その差はどんどん縮まっている。これは日本経済に重大な影響を与えます。我々はしっかりと認識しなければなりません。

<span class="fontBold">野口悠紀雄 (のぐち ゆきお)</span><br />早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問、一橋大学名誉教授 専門はファイナンス理論、日本経済論。 1940年生まれ。1963年に東京大学工学部を卒業し、翌年、大蔵省に入省。1972年、エール大学で経済学博士号を取得。 一橋大学教授、東京大学教授、 スタンフォード大学客員教授などを経て、 2005年4月より早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授。 2017年9月より現職。(写真:加藤康、以下同)
野口悠紀雄 (のぐち ゆきお)
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問、一橋大学名誉教授 専門はファイナンス理論、日本経済論。 1940年生まれ。1963年に東京大学工学部を卒業し、翌年、大蔵省に入省。1972年、エール大学で経済学博士号を取得。 一橋大学教授、東京大学教授、 スタンフォード大学客員教授などを経て、 2005年4月より早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授。 2017年9月より現職。(写真:加藤康、以下同)

「日本企業が製品を売り込むことができる隣の市場がさらに大きくなる」という見方もあります。

野口:それは甘いのではないでしょうか。それよりも、日本の市場が支配される事態を懸念すべきです。銀座はもちろん、京都や北海道も中国からの観光客に“占領”されています。現在の中国の1人当たりGDPが日本を上回ったとき、どれほどインパクトを持つのか認識すべきです。

2040年の日本市場がどうなるのか、どんなイメージを描けばよいでしょう。

野口:日本人が日本経済をコントロールすることができなくなるのです。株価も金利も中国資本の動向いかんで決まってしまう。中国資本が投資する株の銘柄は上がる。中国資本が日本国債を買えば、金利が下がる。

 例えば通信市場は既にファーウェイ(華為技術)が席巻しています。技術面で中国企業に振り回されている状態と言えるでしょう。中国が世界第2の経済大国になったことを知っているのに、「80年代の貧しい中国」「安かろう、悪かろうの製品しかつくれない中国」というイメージをまだ払拭できていません。日本人は眠っているのです。

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