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 読者と一緒に考える「目覚めるニッポン 再成長へ、この一手」。今回は、生産性の向上には最低賃金の引き上げが不可欠と主張している、デービッド・アトキンソン氏に話を聞いた。アトキンソン氏は1990年に来日し、ゴールドマン・サックス証券時代に日本の不良債権の実態を暴くリポートで注目を集めた論客だ。アトキンソン氏が分析した、日本の低成長の原因と、再成長への一手とは。アトキンソン氏の提言について、皆さんのご意見をお寄せください。

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デービッド・アトキンソン氏。
1965年、英国生まれ。1990年来日。ゴールドマン・サックス証券金融調査室長として日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表。2007年退社し2009年に国宝・重要文化財の補修を手掛ける小西美術工芸社に入社、2011年社長に就任。『デービッド・アトキンソン新・観光立国論』『日本人の勝算:人口減少×高齢化×資本主義』(ともに東洋経済新報社)など著書多数(写真:的野弘路、以下同じ)

2019年1月に発売した『日本人の勝算』では、日本の低い生産性を向上させるには最低賃金を引き上げるのが最も効果があると主張しています。どういうことでしょうか。

デービッド・アトキンソン氏(小西美術工芸社社長、以下、アトキンソン氏):『日本人の勝算』では、生産性の問題は経営者の問題だと当たり前のように書きました。そうしたら、多くの読者から「その指摘は斬新で衝撃的です」と言われました。MBAでは最初の1カ月で習うような内容ですよ。しかし、日本では一般的な主張ではなかったようです。昨今の「働き方改革」の取り組みにも表れていますが、日本では、生産性の問題は現場の問題と考えられているようです。

 しかし、現場で解決できる問題には限界があります。現場の権限と知識、知恵でできることしか、変えられません。現場の働き方改革でできることは、微調整みたいなものにすぎませんよ。

 トヨタ自動車の「カイゼン」活動が長らくもてはやされてきたように、日本企業は現場で解決できる「改善」は得意です。しかし、「改革」は苦手です。日本の経営者は、現場に改善をさせることはできても、改革はできないのです。

 なぜ、改革ができないのかというと、調査し、分析し、検証するという論理的思考ができないからです。改革をするにはまず、問題はどこにあるのかを調査し、要因を分析し、仕組みを変える必要があるのかを検証しなければなりません。

 論理的に今の日本が置かれている状況を調査・分析すれば、人口減少や少子高齢化が最大の問題であることが分かります。今年6月に閣議決定された骨太方針2019(「経済財政運営と改革の基本方針2019~『令和』新時代:『Society 5.0』への挑戦~」)にも、「世界的にも経験したことがない、人口減少や少子高齢化の急速な進展は、我が国経済が直面する最大の壁となっている」と記述されました。骨太にこうした認識が書かれたのは初めてでしょう。

 しかし、現在の日本の産業も企業も、人口増加時代にできた経営のやり方をそのまま続けています。国家そのもの、政治家や官僚、経営者の考え方が、人口増加時代から何も変わっていません。

 公的年金の支給開始年齢をどうやって70歳に引き上げようかとか、そういう議論が盛んですが、全て微調整にすぎません。人口増加というこれまでの前提が変わらないのなら、微調整を続けていけば何とかなるかもしれません。しかし、人口増から人口減へとパラダイムシフトが起きているのに、基礎条件が何も変わっていないかのごとくの対応しかせず、改革ではなく改善ばかりを続けています。

 私が提言している「最低賃金引き上げ」は、こうした状況を大きく変える改革になると思います。