自分の「好き」は時間をかけて探していく

中竹:自分の好きなことが分からなくて迷う人はたくさんいると思います。特にこれからはAI(人工知能)やロボットが多くの仕事を代替するようになる。テクノロジーに仕事を奪われて路頭に迷う前に好きなものや得意なものを見つけなければいけないと焦っているビジネスパーソンは多いですよね。
特に、これまで真剣に世の中の仕組みに貢献してきた人こそ、好きなものや得意なものに気づいていないんです。好きなものを見つけなくても、やるべきことがありましたから。それを、これから先20年かけて探せばいいんです。
篠田:具体的にはどんなふうに実践していけばいいのでしょう。
佐宗:僕は、夢を言葉で書くのはダメだと思うんです。言葉は既に概念化されたものですから、もう誰かによってつくられたイメージがある。そうではなくて、最初は自分の中に何らかの体感があって、時間がたつうちにそれがモヤモヤした像になり、ある瞬間に名前が付く。そこにはタイムラグがあるはずです。
体感とかイメージとか、自分の中の何だかよく分からないものを続けていると、そのうち潜在的なイメージが強くなります。それが、世の中でいろいろな体験をしたとき、自分の中でつなぎ合わされるようになる。
それをやるとどんどん好きになって、結果的には好きなことが実現可能なものになる。そんな順番なんだと思います。この流れをすっ飛ばして、「今あるものの中でコレ」と図鑑から選ぶような方法は少し違うでしょうね。
篠田:私は相談を受けたらよく次のように話しています。みんなが面倒でドロップアウトしていく中で、自分は苦じゃなく続けているもの。「好き」とは違うかもしれないけれど、「苦じゃない」「割と続けられる」というのは重宝がられます。少なくとも仕事の分野では、大いにありです。佐宗さんが「体感」とおっしゃったのはそういう面もあるのかなと感じました。
星座をつくるように経験がつながっていく
佐宗:何となくやりたいなとか、自然に好きだなとか、そんな思いが自分の中で何度も出てくることもあるでしょう。逆に何か違和感を覚えることも、1つの判断材料になると思います。イメージとしては「星座」に近いですね。
過去の自分の体験が点のようにあるわけです。同じ分野の経験しかないと形にはならないし、いくつかのすごく光る星と、時々ポンポンと光る星がある。そこがユニークな形で結び付いて全体像が浮かび上がったときに、自分の中の世界が浮かび上がる。これは、自分の経験から感じたことです。
この全体像は、点を見ているときには絶対に分かりません。そして、その「点」を見ている最初の段階で全体像の答えを出さなくてもいいと思います。ただ、定期的に自分と向き合う時間を持たないと、点があることさえ忘れてしまいます。
篠田:生きていると、初めての状況に直面することがたくさんありますよね。そのとき、自分がその課題に向いているか、十分なスキルがあるかは関係ないんです。たとえ向いていなくてもスキルがなくても、結局は過去の自分の経験と今の知識しか武器はありませんから。だから、それらを総動員する。点をつながざるを得ない状況が訪れるんです。それを後で振り返って「いろんな経験を総動員したな」と思うことがありますね。
一方で、先ほど中竹さんが教えてくださったように、私は51歳になって初めて「料理そのものより、料理について考えることが好きなんだ」と分かったんです。いくら内省しても、自分だけでは発見できないこともあるんですね。
「見えない点」を加えてくれる仲間をつくろう
佐宗:描いたものを誰かに見せるフィードバックサイクルがない限り、自分だけでは絶対に分からないことがあると思っています。アーティストも作品のプロセスを世に出すことで何か起こったりします。そこから得られるフィードバックが大きいのでしょうね。
逆に言うとフィードバックがない限りは回りません。それをいかに回すか。もしかしたらコーチのような人が必要なのかもしれないし、僕は「ビジョンパートナー」と呼んでいるけれど、価値観を共有できるパートナーや友達、仲間をつくって、定期的に話をしながら客観的な視点をもらうのがいいと思います。
篠田:客観的には技術を持っていて得意と評価されていることが、実は本人は得意じゃないと思っていることもある。中竹さんのように、ラグビーがうまくて経験も豊富だけれど、実は中竹さんが本当にパッションを燃やすのはラグビーではない、という話に発展するのかもしれませんね。
佐宗:僕は、補助線のようなものがあると思っています。「点」の話で例えると、自分が見えてない点を1つ加えた瞬間に、ある星座が見えてくる。そういう視点を与えてくれる人が必要だと思っています。
多分、ティール時代に「個」を生かすための大切な役割を果たす存在が、先ほど中竹さんが篠田さんにしたようなことなんだと思います。経営者やリーダーにはそのスキルが必須になるでしょうし、学校でもそんな先生がいたらすてきですよね。
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