頭を働かせ、手を動かし、五感を使う

BIOTOPEの代表を務める佐宗邦威氏
BIOTOPEの代表を務める佐宗邦威氏

中竹:私は休みを入れずにずっと働いているんです。それは仕事が好きだからなんだけれど、極端な話、私は人がどうすれば変化し、成長できるのかと考えること自体が自分の内省になっているんです。

篠田:私は2種類あるかな。1つは本を読んでいるとき。私は読書しているとき、読んでいる以上に考えている感覚があるんです。本の内容と自分の考えや感情を照らし合わせて「ああ同じ」とか「違うな」とか。

 その感想は読んだ直後は言語化できていないのだけれど、しばらく時間を置くと「あ、なるほどね」と思えるようになる。「はっ! 分かった」という瞬間がうれしくて生きている感じがあります。

 もう1つは料理の時間。私は料理が好きで子供もいるので、基本的には毎日夕飯を作っています。料理は段取りの工夫の余地がありますよね。「先にお湯を沸かして、その間にこれを刻みながら、あ、こっちも解凍しておこう」と。働いていた時は、夕方に職場を出て家に帰るまでの間に、どういう段取りで料理をするのかシミュレーションをしていました。それが頭を家庭に切り替える時間でもあった。

 もちろん、いつもシミュレーション通りにいくわけではありません。でも、そうやって全く違う頭の使い方をして、手を動かして、五感も使う。そんな時間が毎日の生活の中にあることが結構良かったんだと思っています。

中竹:今、聞いていて分かると思いますが、篠田さんがワクワクとお話しされていて(笑)。きっと篠田さんは料理そのものではなく、料理について考えている時間が一番好きなんですね。私は常にその人の「個」が出る瞬間を探しているので、よく伝わってきました。

篠田:すごい! そうかも! そうです、そうです。料理が好きだと思っていたけど、料理を作る前工程が好きだったんだ。見つけていただいてありがとうございます。

得意やできるよりも「何が好きか」

中竹:皆さんも、自分が一番好きな時間をどれだけ認識できているでしょうか。私はほぼ毎日のようにいろいろなところで講演をしていますが、実は人前で話すのが嫌いです。コンテンツを伝えることも同じで、それよりも人間の原理について考えている時間が一番好きなんです。もう、コンテンツができたら、早くほかの人に任せたいくらい(笑)。

佐宗:人が輝く瞬間や好きなものについて、自分で気づいていないことに気づくことが大事なんでしょうね。それも自分だけでは気づけないこともあるので、相互に気づき合える文化をつくることが大切だと思うんです。中竹さんの会社はいかがでしょうか。

中竹:社員の好き嫌いを圧倒的に大事にしていますね。ラグビーで20歳以下の日本代表チームの監督を務めたとき、明らかにチームが変革する瞬間には好き嫌いがあると感じたんです。

 私の合宿では、毎晩必ずラグビーの話をしないミーティングを持つんです。そのときには、選手たちに自分が最も好きなことを話してもらっています。代表選手でもチームメートにそんな話はしたことがないので、最初はなかなか出てきません。

 仮に何かを言っても、最初は「本当にそうなの?」という部分があるんです。でもこれを繰り返し共有していくとチームが強くなるんです。「ああ、こいつは走るのが速いからトライゲッターをやっているけど、実は本当に好きなのはもっと地味なプレーだよな」という選手もいる。

 もしかすると、好きなものの方がその選手の強みになるかもしれない。それを互いに言い合えると、「こいつはこれが好きなんだな」と好きなプレーをたくさんやらせるようになる。そこで有機的にチームが動き始めるんです。つまり「何が上手か」「何ができるか」という能力の話ではなく、「何が好きか」が重要になる。

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