2018年1月に日本語版『ティール組織』(英治出版)が発売されて以降、日本国内ではこのティール組織が「次世代の組織モデル」として注目を集めている。そもそもティール組織とはどんなものなのか。なぜ、従来の「管理型組織」ではダメなのか。日経ビジネスRaiseでは、読者とともに新しい組織の在り方を考えるプロジェクト「ティールってなに? 非管理型組織のススメ」を実施してきた。プロジェクトの内容は10月28日号の日経ビジネスにスペシャルリポート「もう『階層』はいらない 自律組織が閉塞感を打破」に掲載する。

2019年9月には『ティール組織』の著者フレデリック・ラルー氏が来日。東京工業大学では9月14日、丸ごと1日を費やして「ティール・ジャーニー・キャンパス」が開催された。今回は本カンファレンスで開催されたセッションの1つ「これからの『個人のあり方』を考える」の内容を前編、後編に分けて報告する。今回は、その後編。

登壇したのは、日本長期信用銀行(現・新生銀行)やマッキンゼー、ノバルティスファーマ、ネスレ、ほぼ日を経て、現在は充電期間中の篠田真貴子氏、P&Gやヒューマンバリュー、ソニーを経て独立し、BIOTOPEの代表を務める佐宗邦威氏、早稲田大学ラグビー蹴球部で主将や監督を経験し、日本ラグビーフットボール協会で理事を務める中竹竜二氏。多様なキャリアの3人が登壇し、個人がティールな生き方を実践するための処方箋を語った。

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ルールを変え続けていくこと

(左から)篠田真貴子氏、佐宗邦威氏、中竹竜二氏(撮影/竹井 俊晴、ほかも同じ)
(左から)篠田真貴子氏、佐宗邦威氏、中竹竜二氏(撮影/竹井 俊晴、ほかも同じ)

佐宗:これまでのお話を聞きながら、「個」が自立するチームマネジメントはどうなのかなと思いました。特定のカルチャーで固定化されすぎてしまうと、決まった通りに行動するのが正解だと無意識にみんなが思うようになる。ただ、それが「個」にとっては最適じゃないことだってあります。それなのに固定化したカルチャーが評価されていると感じるから、みんながそれに従ってしまう。

 カルチャーは固定化されすぎてしまうと危険なのかなと感じました。例えば僕は社内通貨のようなものを数カ月試したことがあるんです。ここで難しかったのが、金銭的評価以外のところで何を評価するのか。周りの人を支えたとか楽しい雰囲気をつくったとか。何がうちにとって正しくて、何は正しくないのかと決めた瞬間にカルチャーが固定化してしまうんです。そしてデザインすればするほど、デザインされなかったものが生まれてくる。いたちごっこが起こるんです。

 それよりもルールを変え続けることで、最終的にはいろんな人の「個」もカバーされていく。そういう土壌ができていることが大切だと感じました。

「プランB」があれば大きな一歩が踏み出せる

篠田:佐宗さんも中竹さんも組織のトップだから自分でどんなカルチャーにしようかと考えて実践できます。けれど組織のメンバーの1人だと、そこまでの自由度はありません。文化を変えることまではできない中で、「個」として自分はどうしたらいいのか、考えていました。

 私はこれまでのキャリアの中で、常に「ここで働いてないなら何があるかな」とリアルに考えていた気がします。若い頃は転職する気がなくても毎年ヘッドハンターと面談して、他社の採用面接を受けていました。自分が全く違う業界でも評価されるのかとか、今の会社で頑張っていることが意外と外では評価されないものなのだなとか、そんなことが見えるようになってきました。

 「個」の単位でも関われる外の世界がある。自分にも多面的な特徴がある。それぞれのプラスとマイナスを見ると、自分の中のこの部分をもっと発揮するなら今の場所じゃない方がいいな、と選択肢が増えていく。

 特に私は子育てもしていましたから、会社での自分と、家庭における母親としての自分が違う面もある。その両方を俯瞰(ふかん)することで「自分の面白いやり方はこの辺かな」と探している感覚がありました。

 今回のテーマである「個のあり方」という意味では、違う場をいくつか持つことも重要かもしれません。それは仕事と家庭かもしれないし、友達関係かもしれない。

 ちなみにラルーさんの講演では「プランB」というキーワードが出ていました。組織のトップにいる人ほど、その立場を失うコストが大きいから大きな変化や冒険に踏み出せない。例えば政治家は、非常に高い志があったとしても、次の選挙にどう勝つのかについ目が向いてしまいます。

 それに対してラルーさんは、政治家であることを「プランA」とするなら、「プランB」として政治家じゃなくても同じくらい情熱を持ってしたいことは何かを思い描いてみるといい、と語っていました。「プランB」があると、「別に選挙に落ちてもいいか」と振り切れて、結果として本来自分がしたいと思っていたことに踏み出せる。

中竹:私が監督としていろんなチームを見ていたときのことです。「この代はチームワークがそんなに良くないな」というケースがあったんです。仮にこのとき「チームワークこそすべてだ」と言っていると、人間関係にヒビが入った瞬間にそのチームは終わってしまいます。逆に「チームワークなんかそんなにいらないよ」と言っていれば、ほかの方法で頑張るようになる。同じように、人生でも「プランB」を選択肢として用意することが、実はとても大切なんです。

過去の自分に縛られないためには

篠田:私はいろいろな職場で働いてきたので、それぞれの良さや、その業種や歴史だからうまくいくやり方があることを見てきました。ある会社で良しとされることが、別の会社ではNGだったりする。でもどちらも良い会社なんです。自分自身も変化し、自分にとって何がいいのかも変わってくる。この「可変である」ことを知るのが、とてもいいんです。

 気持ちがラクになるし、いくつかある選択肢の中で自分が決めていいんだと思えると、どんな状況でも人間の精神を健全に保つことができる。

佐宗:今は変化のスピードが速くて、自分が1カ月前に言っていたことだって、今も本当に心からそう思えるかというと正直分かりません。それなのに過去の自分に縛られることがすごくある。

 「個」はどうやって「個人化」されていくのか。完全に自由な個人は個人にはなりにくいんです。何かと線を引かれるから「個人」になるわけですから。この時、組織がその役割を与えて線を引いて、個人を生み出すこともあります。

 ただ一方で、例えばアーティストが個人を定義するときは、自分でテーマやルールをつくりますよね。今回の作品はこの場所でこんなテーマでやってみよう、とか。この自分でルールを設定して、自由な感覚で何かを生み出すこと。

 理屈はないけど、とりあえず目の前のキャンバスに何かを描き始める。素の自分を出すとは、そういうことなんじゃないかと思うんです。例えば僕はスケッチブックに絵を描くことが好きなんですが、定期的にどこかに通ってただ絵を描く。この時間が癒やしになるし、自分の中のちょっと古いものがアップデートされる感覚もあるんです。

 篠田さんも中竹さんもとても内省的だと思うのですが、自分を振り返るためにどんな時間を持っていますか。

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