個人の可能性を解放する

なぜ今、そのような試行錯誤が行われているのでしょうか。

小林:1つは、個人の可能性の解放です。つまり、どうしたら一人ひとりが生き生きと仕事ができる組織になるだろうかということ。

 ヒエラルキー型の組織はその構造上、階層が下がるほど裁量は狭まり、個人のエネルギーが抑え込まれがちになります。そうした従来型の組織モデルに違和感を覚えていた人たちが、個人を、企業を構成する「部品」として管理するのではなく、個人の主体性を尊重しながら、自由度を高めて、自律的に動ける経営環境をつくるには、どうしたらいいのかという試行錯誤が始まっています。

 もう1つは、急激な変化に適応するためです。例えばオレンジのような階層型の組織は、大きなリソースを動かすために組織のトップに情報を集約し、トップダウンで意思決定を下します。トップがあらゆる情報を把握でき、未来がある程度、予測可能な場合には合理的に意思決定ができます。

 けれど現実には、社会の複雑性や変化のスピードが加速し、先行きが見通せない時代になっています。トップに情報を集約している間に状況は変わりますし、唯一の正解が存在しない中で、トップが意思決定をするのはそもそも合理的ではなくなっています。

 それよりも、いろいろな人が持つ知恵を生かして、自律的に意思決定した方がいい。ティールのような組織は、トップ1人が意思決定の責任を追うのではなく、それぞれ独自のセンサーを持った細胞が、全体となって生き物になっているイメージではないでしょうか。

 こういった集団は、一糸乱れず一つの方向に向かう集団と比べると、前に進むスピードは遅くなります。けれど一方では、一つひとつの細胞の生命力は高くなるし、組織のいろいろなところで自律的かつ多様な意思決定が下されるので、誰か1人が判断を間違えても、結果としては組織全体が生き残りやすくなる。つまり持続可能な経営が実現しやすいのです。

 従来型の企業で、いかにティール組織を実践するのか、という話に戻すと、これは突き詰めると、経営者の思想やリーダーシップのスタイルに行き着きます。原著タイトルの『Reinventing Organizations』という言葉そのものも、人間の意識段階に伴う組織の発達段階の1つとして提示された概念です。そしてラルー氏は別に、ティール組織が最良だとか、最終形だとは言っていません。

 ティール組織をゼロからつくっていくこと以上に、既に出来上がったシステムを壊して、ティール組織へ移行することは、容易ではありません。

 例えば、書籍『ティール組織』の中でも紹介されているオズビジョンは、本の中では書かれていませんが、変化に伴って、社員の3分の1が辞めたそうです。つまり多くの企業は「どうすればティール組織になれるか」と目指すより、まずは「ティール組織の実践や知恵から自分たちが学べることは何か」を考えるべきなのでしょう。

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