血族集団に代わる”群れ方”がティールだった?

佐宗:その要素は大きいと思います。そして世界中でネットワーク化が進み、企業がグローバル化していくと、ティール組織のような自律性を大事にした組織の考え方は、あらゆる国と地域で知識創造型の産業を起点に広がっていくはずです。それは世界的に同じ構造でしょう。

 一方で、日本でなぜ特に『ティール組織』が売れているのかという議論は、どうでしょう。人間の“群れ方”には文化が影響を与えます。文化人類学者のエマニュエル・トッドは世界の家族制度を分類して、家族の型と社会の関係を示してきました。

 例えば、北欧などは基本的に自立した個が構成する社会で、極端な話、相続で家のものを受け継ぐというよりは、自分でどんどんと世帯をつくっていく発想です。最初から自立という概念が、“群れ方”の中に埋め込まれている。

 日本はこれまで家父長制でした。家を守り、長子が財産を相続する。長子に権力を集中させ、それ以外の人は出ていく構造です。つまり権威主義的な構造で、家を守ってきたわけです。そして日本人の思想には、そのDNAが深く埋め込まれている。「お上が守ってくれる」「年長者が守ってくれる」……。そんな発想が根強いですよね。

 けれどこの構造が今、壊れつつあります。深刻な少子高齢化による人手不足が進んでいます。戦後の経済発展を支えた産業も曲がり角に直面している。もう過去の社会構造を壊さない限り、日本は立ちゆかなくなります。

 端境期を迎え、これまで維持されてきた日本人の“群れ方”と、より新しくてリベラルな“群れ方”がぶつかり合っている。古い仕組みが壊れつつある中、その代替案としてティール組織を捉える人が出てきたのでしょう。

 例えば中国や韓国では、旧来型のシステムが壊れる中で、キリスト教の信者が増えているそうです。アジアの人々の多くは、血族集団の中で個のアイデンティティーを守ってきました。けれど、日本と同じようにその共同体が少しずつ壊れていった。突然、「個として独立せよ」と言われると、誰だって不安になりますよね。そんな中で新しい安全機能としてキリスト教が支持された。中国や韓国でキリスト教が広がっているのは、こんな背景があります。

 ただ、日本は宗教に対するアレルギーが比較的強いので、過去の共同体に代わるものがなく、誰もが孤独の中で生きていました。だからこそヒエラルキー型の社会が事実上、壊れていく中で、そこから出てきた個人がしっかりと、安定した形で“群れる”必要性が高い。

 個人はある程度、自分たちで生きがいを持ちつつ、“群れる”ことで、安定を保たなくてはならない。ティール組織は、その新たな形の共同体をつくる役割を期待されているのではないでしょうか。

 これが、ヒエラルキー型のオレンジ型組織からグリーン型、さらにその先の変化が求められている背景だという仮説を持っています。

ティール組織は目標ではなく結果だった

会社という共同体に属しておけば、定年までの人生は面倒を見てくれる。「家」に代わって日本人を守ってきた「会社」も、もう個人を守ってくれなくなっています。これから先はあらゆる世代でティール組織が支持されるのでしょうか。

佐宗:逃げ切り世代は、ティール組織をいいとは言わないでしょうね。会社に一生、面倒を見てきてもらったわけですから。実際、ティール組織に共感するのは45歳よりも下の世代が多い印象があります。どんなに大企業に属しても、会社が一生、守ってくれるわけではないことが既に自明になっている世代です。

 ヒエラルキー型の組織が限界を迎えていることは分かっているけれど、別の代替案が示されているわけでもない。旧来型のヒエラルキー組織への不満と未来への不安。そこにティール組織という新しい概念が出現したものだから、私たちはそこに、新たな社会の可能性を感じたという側面もあると思います。

 また、ティール組織のもう一つの背景として、テクノロジーのさらなる進化が実現できる可能性が表れてきていることも押さえておく必要があります。

 自律分散組織(DAO: Decentralized Autonomous Organization)という言葉が、インターネットやブロックチェーン界隈(かいわい)で注目を集めていますが、ここでもティール組織が提唱する「中心のない“群れ方”」の考え方に近いんです。

 より匿名性が高く、出入り可能なバーチャルの組織が、国境を越えてスマートコントラクトなどを使って実現可能なのではないか。インターネットによって実現できるようになった自律性の思想を大事にしながら未来の組織を考えていたら、自然とティール組織っぽくなっていった、という会社も多いのではないでしょうか。

 例えば、ガイアックスの上田祐司社長やカヤックの柳澤大輔CEOは、もともと「権限は分散されるのが自然である」という考えで会社を経営されているような印象を持っています。誰も論理を学んで、それに従って実践したわけではなくて、手探りで自分たちのスタイルに合う方法を模索していたら、『ティール組織』にはその思考の過程の全体像が書かれていた、という感じです。

 実践者にとっては、何か経営の意思決定を下す際に、一度見直してみるというような使い方をする一方で、旧来型のヒエラルキー組織に属しているのだけれど、疑問を抱いているような方々も多く興味を持っているということがあの本があれだけ売れている背景ではないかと思っています。

「オープン編集会議」で議論していた課題とも共通します。つまり旧来型の大企業でティール組織は実践できるのか、と。

小林氏(小林):周囲のティール的な組織の実践者と話した感触では、「ティール組織になりましょう」と掲げてうまくいっているケースを見たことがありません。個人の自律性を高めていこうと試行錯誤した結果、ティール組織的になった、というケースが多いです。

佐宗:同感ですね(笑)。

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