社員がゴールを見失ってしまった

青木:僕の口癖は「自分の頭で考えろよ」でした。

 それぞれの人が自分の持つ真心を発揮すれば「異常なぐらいの親切」は実現できる。答えは社員の中にあるのであって、自分でちゃんと考えれば分かるでしょう、と考えていたんです。マネジメントがファジーな方が、社員の個性を潰さないとも思っていました。

 そうすると、僕の意図した通り、社員はそれぞれの考える「異常なぐらいの親切」を実践し始めるんですね。膨大なコストを使って、1人のおばあちゃんを喜ばせようとした人もいました。

 そんな様子を見て、経営者である僕は不機嫌になるわけです。「いくらなんでもお金を使い過ぎだろう」と。すると社員は「あ、この方法は違うんだ。お金を使い過ぎたのかな」と気づく。

 一人ひとりが考えて動くように、と言っているけれど、結局は社員が社長である僕の顔色をうかがいながら仕事をするようになってしまいました。

 「正解」が明確に見えない中で、社員は恐る恐る、挑戦を重ねる。これはつらかったと思います。そして僕自身も、「なんで俺の価値観が理解されないんだ」とフラストレーションを募らせていた。両者にとって不幸だったはずです。

 改めて今、ザッポスの本を読み返すと、当時は気づかなかった点が、目に入ってきました。

 例えば採用について。ザッポスではいったん採用しても、その社員が組織のカルチャーに合わなければ、一定の金額を支払って早い段階で退職してもらう仕組みがあります。そもそもザッポスは人気企業で採用倍率も高い。つまり企業が自在に社員を選べる環境にある。

 そう考えると、ザッポスが自分たちのチームでジャズセッションを実現できているのは、一定レベル以上の人たちの集団だったからだ、と理解できます。いわゆるティール組織になるなら、まずはレベルの高い人たちを集めないといけない。

 翻って、当時の僕の会社でティール組織が実現できたのか、と考えると、多分難しかったのだと思います。

 当時、僕が理想とする組織を実現するなら、採用や雇用の仕組みを抜本的に変える必要があった。それを、今なら理解できます。

 つまり「ティール組織ってなんだかすてきそうだな」というくらいの覚悟で実現できるものではないわけです。本当に実施しようとすれば、ヒエラルキー組織以上に、経営者の胆力が問われるわけです。

 繰り返しますが、かつての僕のマネジメントは社員にとってもつらかったと、今ならばよく理解できます。

 「異常なぐらいの親切を」と掲げられたって、明確なゴールは見えません。当時の僕は、社員が夢中になって寝食を惜しむくらい没頭できる仕事をすると、きっと幸せだろう、と思っていました。

 なぜなら僕自身が仕事に夢中になってとてもハッピーだったからです。社員も同じ気持ちになれば、きっと幸せに生きられる。そう考えていました。仕事とプライベートの境目も分からないくらいみんなで楽しく働けば、それこそが幸せであると思っていたんです。当時の口癖は、「棺おけでゆっくり寝ようぜ」(笑)。

 みんな、僕が話をするとその姿勢に心から共感をしてくれるんです。「青木さんの会社で働けるのはとても幸せです」とも言ってくれる。この言葉に嘘はなかったと思います。

 ただそれなのに、なぜか社員は体調に異常が出て、離職者が続々と増えていった。さすがに僕も反省しました。

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