社長が思い通りに経営したいならティールは勧めない

ティールを実践する企業で、業種の特徴はあるのでしょうか。私がいた医薬品メーカーは、ルールがしっかりとある規制業種です。そういったところでティールを実践しようとすると法律違反になったり、実践しにくくなったり、ということはないのでしょうか。
嘉村氏:『ティール組織』著者のフレデリック・ラルーさんの言葉で言えば、「できない業種という事例は、今のところない」そうです。
ティールになれるのは、ITやスタートアップ、100人未満の規模だけではないかとよくいわれます。けれどティールを実践する自動車メーカーなどの製造業も、アパレル企業も、医療・福祉系も、存在しています。従業員4万人規模の電力会社も存在しているわけですし。
ただ、「この地域では、この業者と、これこれの手続きをしないと法律に抵触してしまう」といったことが全社員に共有されていることが大前提となるでしょう。そのために、組織内で情報の透明性を担保するのがティールの第一条件です。
インサイダー取引や個人情報をどうするのかという課題はありますが、そういった全員には共有できない情報があるということも、透明化しておくべきでしょうね。
例えば企業経営では、特定の事業部の売り上げを落としてでも、別の事業に集中しないといけない、という局面があります。そういった決断は、会社のミッションやビジョンを踏まえて社長が判断を下し、調整します。ティールの場合、こういった意思決定は誰がするのでしょうか。
嘉村氏:今の日本の組織では、その企業を取り巻く社会環境に関して、どのように対処していくのかということを、経営者がすべて自分で判断しなくてはなりません。けれどティール組織では、状況をどのように捉えてどう対処していくのかということも、全員で情報を共有して、自分たちで考えていく。つまり経営の意思決定の在り方が、根本的に異なるのです。
ですから仮に、社長が自分の描いている青写真をいち早く世の中に実現したいという思いで、企業経営をしているなら、ティール組織にしないほうがいいでしょうね。
ティールを選ぶということは、集まったメンバーと自分でさえ思い描いていないような新しい未来をつくりたいという思いがあること。それが大前提となっていなければ、難しいのではないかと思います。
このほか、インタビューでは、「日本の企業は、欧米の企業に比べて、ティール化するのに向いているのか」などといった質問が出た。「日本は自分たちが何かしようというアクションを起こしにくい文化があるので、ティール化は無理だと感じる人が多いのではないか」という意見が出た一方、「完全なトップダウン型の欧米企業に比べると、ボトムアップ型の日本はティール化するのに向いているのではないか」という声も上がった。
こうした議論に対して嘉村氏は、「日本と欧米のどちらがいいかというよりも、どちらにも欠けている部分と向いている部分がある」とした上で、「いつでも社員を解雇できる米国に比べると、日本は圧倒的に労働者にとって安心・安全な環境がある。その分、ティール化には挑戦しやすい環境が整っているのでは」とコメントした。
次回のオープン編集会議は、本日(2019年8月19日)、日本国内でもティール組織の代表的な存在として語られることの多いヤッホーブルーイングを取材。後日その模様をお届けする。
■追記(8/20)
