1日1問の課題に向き合い、考える癖をつけましょう。アビームコンサルティング、エイベックス、AGC、キリンホールディングス、凸版印刷、日本生命、ライオンの7社が、毎日1問、100日で計100問の課題を出題し、各社の強みを伝授します。読者はコメント機能を使ってその議論に参加できます。営業力や発想力、ヒット商品の作り方──。この連載を通して、明日からビジネスの現場で使える知識や考え方を学びましょう。

 若手社員100日養成塾の第3弾は「デジタル化による経営改革」。AI(人工知能)やRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入による生産性向上が叫ばれるなか、その成否を分けるものとは何か。アビームコンサルティングからデジタル改革の要諦を学ぶ。まずはRPA導入の第一人者であるアビームコンサルティングの安部慶喜・戦略ビジネスユニット執行役員プリンシパルのインタビューを掲載する。

(写真:PIXTA)
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規模を問わず、多くの企業がデジタル化による経営改革に取り組んでいます。背景は。

安部慶喜氏:企業は30年以上前からデジタルによるビジネスの創出や経営改革に取り組んできました。ただ、日本に限っていえばデジタルをうまくビジネスに繋げられている企業はほとんど現れてこなかった。

<span class="fontBold">安部慶喜氏</span><br />アビームコンサルティング戦略ビジネスユニット執行役員プリンシパル<br />2000年入社。製造業、卸売業、サービス業、運輸など幅広い業種における経営改革、働き方改革、人財改革、業務改革、制度改革、デジタル改革等を支援。 特にRPA領域では、グローバルの専門チームの統括責任者として、200社以上の企業に3,000体以上のロボット導入を指揮。 日経新聞、日経産業新聞などの新聞各紙への取材記事掲載や、NHK、日経ビジネス、日経コンピュータ、週刊ダイヤモンド等の媒体への寄稿・インタビュー多数。著書『RPAの威力』『RPAの真髄』を執筆。 その他、「プレゼンテーション」「ドキュメンテーション」の研修講師など、数多くの啓蒙・教育活動も行う。
安部慶喜氏
アビームコンサルティング戦略ビジネスユニット執行役員プリンシパル
2000年入社。製造業、卸売業、サービス業、運輸など幅広い業種における経営改革、働き方改革、人財改革、業務改革、制度改革、デジタル改革等を支援。 特にRPA領域では、グローバルの専門チームの統括責任者として、200社以上の企業に3,000体以上のロボット導入を指揮。 日経新聞、日経産業新聞などの新聞各紙への取材記事掲載や、NHK、日経ビジネス、日経コンピュータ、週刊ダイヤモンド等の媒体への寄稿・インタビュー多数。著書『RPAの威力』『RPAの真髄』を執筆。 その他、「プレゼンテーション」「ドキュメンテーション」の研修講師など、数多くの啓蒙・教育活動も行う。

 それは失敗を嫌い、トライ・アンド・エラーができなかったから。少し使って失敗したら見直して次を仕掛けるーー。GAFAですら、最初は小さいビジネスからスタートしてトライ・アンド・エラーを繰り返しています。ただ、日本企業は文化としてそうしたことが苦手だった。

 ただ、それが変わってきました。一つはRPAの存在があります。3年ほど前から働き方改革のブームが訪れ、4月には法制度も整いました。それと連動して、RPAを導入する企業がぐっと増えた。従来のシステム開発のように数年をかけて数十億といった大きな投資をして構築し、一気にカットオーバーするのではなく、一つの業務に適用して、うまくいったら次は別の業務に、という流れができ始めた。少しずつ変革が起こっています。

 もう一つの理由は「脅威」です。欧米だけでなくアジア諸国でも、デジタルを活用した新しいビジネスを生み出し、一気に顧客の全てを取り去るような「ディスラプター」が生まれ始めました。とにかくチャレンジしないと全てを壊されてしまうという危機感がある。

RPAと、安部さんが言う「小さく始める」という進め方の相性がいいのでしょうか?

安部:その通りです。旧来のシステムは全てが連動しているので、一つ変えようとすると全てに影響してしまう。ただ、ロボットはそうではない。社員が1人、入社したようなものだと考えてください。どんな仕事をさせるか自分たちで決めることができる。まずは小さく始めてその仕事ができたら次、その次と手が打てる。先日、ロンドンでRPAの大きなイベントがありたくさんの事例が並んでいましたが、ことデジタル化による経営改革という点では日本が1年〜1年半ほど進んでいる印象を持ちました。

クライアントに対してのアビームの強みは?

安部氏:我々はRPAを「単なるツールにすぎない」と捉えています。だから導入は目的ではありません。我々の方法は、今までの人間による仕事の進め方を一旦、ゼロにして考えるところから始めます。これまで人間がやってきた仕事だからこういうやり方なのだ、と捉えた方がいい。例えば多重承認。不正やミスが起こり得るのは人間が承認してきたから。人間だからこそのフローなわけです。こうした点にメスを入れます。カイゼンではなく「再構築」するのです。ロボットと人間が合わさって仕事をする最高のプロセスを作り上げます。そこに我々のノウハウがあります。

 ロボットと人間の大きな違いは「スピード」と「正確性」。人工知能を持たない前提でRPAを捉えると、決められたことしかできません。ただ、決められたことは絶対に間違えない。疲れも揺らぎもありません。そしてスピードは人間の10〜20倍です。

 一般的にAIは、100のタスクを与えると、「どれか」1、2つは間違えます。一方でロボットは100のうち70くらいは「完璧」にできる。ただし残り30はできません。これを人間との協働という点で捉えると、前者はどれを間違えたか分からないので、100全てを人間がチェックしなければならない。でも、後者は70は完璧なので確認するのは30で済む。この切り分けが日本人の完璧主義と非常に相性がいいんです。この70をどうしたら80にできるか考えればいい。

一方でRPAを導入したにもかかわらず成果が出ないケースもあります。

安部:すでに日本の大企業の90%以上は何らかのRPAを導入しています。ロボットなどのデジタルレイバーが自社の仕事をしている状態なのです。ただし、その中で成功しているのは10%未満でしょう。RPAに置き換えられる仕事をピックアップして、次々に置き換えている。でも、それではRPAの本来の効果は得られません。単なる「システム化」にすぎないからです。置き換えているので生産性は多少上がるでしょうが、本来の効果の10分の1程度しか得られていない。

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