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マルチアイデンティティーに変わろう!

田中:日本人は「アイデンティティーは1つである」という幻想を抱いていますよね。1大学、1専門……と、いろんなものを「1つだけ」に絞らせようとする。それをこれから先は、「2、2、2でいい」といったようにマルチアイデンティティーに変えていかないといけないんです。

 『ライフ・シフト』で僕が感銘を受けたのは、人生には複数のステージがあると唱えていることです。A、B、C、D……と家庭や会社、地域コミュニティー、副業など、多様な輪の中で“複数生”を生きていい。それが人生100年時代のセーフティーネットになるんです。シングルアイデンティティーだとつまずいた瞬間に人生が終わってしまう。それはあまりにも危険すぎます。

 「マルチアイデンティティーだと芯が揺らいで自分を見失う」という批判もあります。けれど人間はもっとしなやかな生き物です。そもそも大人になるといくつもの役割を生きていますよね。会社の人、地域の人、高齢の親を持つ息子であり、夫であり、子供の親……と。もともと“複数生”を生きているのだから、仕事においても複数のコースを生きられる。そんな時代になるはずです。

伊藤:シングルアイデンティティーをダブル以上に増やすには、生産性を高くしないとダメですよね。そして景気が良かろうと悪かろうと、自分が変化し得る存在であるという意識を持つこと。それが何よりも重要だと感じています。

 どんどん動いていろいろなものを学んでいく。自分の武器は複数持っていた方が、心の安定にもつながるはずです。そして変身をしたら、生産性を徹底的に鍛えていく。この繰り返しではないでしょうか。

 もともと僕は勉強会や異業種交流会で、知らない人と自己紹介しあうことだって苦手なタイプでした。新しいことは「失敗したらイヤだな」と、知らないものには挑戦できなかった。そんな人生を2010年くらいまで生きてきたんです。

 それが43歳の時、ソフトバンクアカデミアに入ってすごい人たちと知り合うようになって変わっていった。彼らは好奇心の塊で、会えばみんな「すげえ」「やべえ」といろんな物事に興味を示し、感心している。その様子を見ながら僕も、少しずつ好奇心を育んでいったんです。つまり、人間はいくつになっても変わることができる、ということです。

田中:そして変わるには最初に、刺激を受ける環境に身を置く必要がありますよね。自力で180度変わるのは難しい。だからこそ意識的に今と異なる環境に身を置く。そのためにはまず移動をしてみる。そこからスタートしてもいいのかもしれませんね。