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 人生100年時代。ビジネスパーソンが「現役」として働き続ける時間は、かつてよりもぐんと長くなっている。テクノロジーの進化や社会の劇的な変化、終身雇用と年功序列の崩壊に伴い、私たちはこの先、「同じ仕事だけを続けていく」ことが難しくなる。

 その難しさを解消するのが「プロティアン・キャリア」だ。プロティアンとは、ギリシャ神話に出てくる、思いのままに姿を変える神・プロテウスのこと。そこから転じて、「プロティアン・キャリア」とは社会や職場の変化に応じて柔軟にキャリアを変えていく、言い換えれば「変幻自在なキャリア」を意味する。そんな働き方ができれば、どんなに社会環境が変わろうとあなたは生き生きと「現役」を続けられる。


 そんな「プロティアン・キャリア」を形成するための理論をまとめたのが『プロティアン 70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本術』(日経BP)。人生100年時代、どんな環境になったとしても生き生きと働き続けるために、私たちは今、どんなキャリアを形成していくべきなのか。

 今回はそんなプロティアンなキャリアを実践する伊藤羊一氏と対談。伊藤氏は、日本興業銀行から文具メーカーのプラスに転じ、現在はYahoo!アカデミアの学長を務めている。また『1分で話せ』や『0秒で動け』(ともにSBクリエイティブ)という2冊のベストセラーの著者でもある。伊藤氏はこれまでどのようにキャリアを構築してきたのか。

法政大学キャリアデザイン学部のタナケン先生こと田中研之輔教授(写真右)と、『1分で話せ』『0秒で動け』著者の伊藤羊一さん(写真/竹井俊晴、ほかも同じ)

日経ビジネス電子版でゼミナール連載「タナケン先生のプロティアン・キャリア講義」を掲載してきたタナケン先生こと、法政大学教授の田中研之輔先生が『プロティアン 70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本術』(日経BP)という本を出しました。「プロティアン」とは環境の変化などに応じて、変幻自在にキャリアを変えるという生き方です。そして『1分で話せ』『0秒で動け』(ともにSBクリエイティブ)が大ヒット中の伊藤羊一さんは、まさにプロティアン実践者と言えるキャリアを歩んできています。

田中教授(以下、田中):僕が羊一さんと出会ったのはソフトバンクアカデミアでした。「明日の日本を創る後継者の育成」と掲げて孫正義さんが社内外から人材を集めて、参加者全員で議論を繰り広げる。この1期生として社外から参加した中に僕と羊一さんがいたんです。

 当時の羊一さんは大手文具・オフィス家具メーカー、プラスの幹部。大学卒業後に入った日本興業銀行からプラスに転じた羊一さんが、現在ではYahoo!アカデミアの学長になっている。まさにプロティアンな生き方ですが、羊一さんは意識的にこうしたキャリアを構築してきたのでしょうか。

伊藤氏(以下、伊藤):それが実は、僕の場合は全くの偶然だったんです。ソフトバンクアカデミア1期生の同期には、 (書家・プレゼンテーションクリエーターの)前田鎌利さんもいました。国内コースと国外コースがあって、僕は国内コースに所属していたのだけれど、プレゼンをするといつも前田さんに負けていました。ただ年間を通してみると、僕が1位になっていました(笑)。

 プレゼンを聞いた孫さんからある時、「それで、お前はどうするんだ」と迫られたことがありました。どうやらそれは「うちに来ないか」ということだったらしいのだけれど、僕は全然気が付かなくて(笑)。そのくらい転職のことは頭になかったんです。それが2012年のこと。

 けれど結局、2015年にヤフーに転職しました。アカデミア時代の僕に、転職したいという思いはありませんでした。ただ振り返ってみると、確かに、転職に至る流れにはつながっているんです。

田中:僕は『プロティアン』で、人生100年時代をみんなが楽しく、それぞれの役割を果たしながら生きてほしいというメッセージを込めました。

 人間はどうしても、同じ場所で同じ仕事をしていると飽きてくる。人生のどの段階でどうギアを入れてキャリアを形成するのか。それを伝えたかったんです。

 その観点で見ると、羊一さんのキャリアは点と点がうまくつながっている。しつこいようだけれど、戦略的ではなかったんですね。

伊藤:「プランド・ハップンスタンス」(計画された偶発性理論)、ですね。