全5251文字

3つの資本が「プロティアン・キャリア」を構成する

 プロティアン・キャリア論を提唱した米ボストン大学のダグラス・ホール教授は、組織内キャリアから自ら変幻するキャリア形成へ、その捉え方を大きく変えることに成功しました。この点は、大いに評価すべきです。

 しかし、変幻し続ける個人が、何を基準にキャリアを形成すべきなのかは明らかにされませんでした。

 そこで私は、社会学者のピエール・ブルデュー教授が提唱していた多元的資本論の概念をプロティアン・キャリア論に接合させ、「プロティアン・キャリアキャピタル」という新たな視点を構築したのです。

 プロティアン・キャリアキャピタルとはどんな資本のことなのか。押さえるべきは次の3つの資本です。

(1)文化資本……スキル、語学、プログラミング、資格、学歴、職歴などの資本
(2)社会関係資本……職場、友人、地域などでの持続的なネットワークによる資本
(3)経済資本……金銭、資産、財産、株式、不動産などの経済的な資本

 「プロティアン・キャリア」を、これら3つの資本の総体として捉えることができれば、社会や組織の変化に適応したことで、いかなる資本を形成することができたのか、よりクリアに理解することができるようになります。

 また「プロティアン・キャリア」で形成されるものを資本として捉えれば、環境に適応して変幻する行為や意思決定が一時的なものではなく、個人を軸とした長期的な資本であると客観視することができるようになります。

 この考え方はタナケンゼミ2回目(「『会社の中だけ』でスキルを磨いて定年まで生き残れるか」)で紹介した、リンダ・グラットン教授らの『ライフ・シフト』の中でも、資産として取り上げられています。お金などに換算される有形資産だけでなく、語学やスキル、友人、家族、ネットワークなどの無形資産を形成していくことが、人生100年時代を豊かに過ごすカギであると述べられているのです。

 「プロティアン・キャリア」で形成する「文化資本(cultural capital)」「社会関係資本(social capital)」と、リンダ・グラットン教授らが提起した「無形資産(intangible asset)」はどちらも、経済的な価値に直接は換算・還元されない継続的な行為に着目しています。

 ただし、より厳密に解説するなら、ピエール・ブルデュー教授の「多元的資本論」は、経済的な資本格差が文化資本や社会関係資本を通じて、再生産される過程に着目して問題を生み出す社会構造にアプローチするのに対して、リンダ・グラットン教授らは、無形資産をためていくことで、個人の生活が豊かになるという主体的な取り組みに可能性を見いだしています。

 ちなみに私は、「プロティアン・キャリア」の形成を通じて、文化資本や社会関係資本を蓄積することで、経済資本も大いに変わってくると考えています。つまり再生産の範疇(はんちゅう)を越えた行動によって、資本蓄積に可能性を見いだしているのです。

 もっと分かりやすくお伝えするなら、社会格差は世代間で継承される傾向は否定できないものの、行動による格差も大きな影響を及ぼすということです。つまり人生100年時代、親などから受け継いだ資本よりも、自分の行動によって生み出される資本の総体によって、キャリアが形成されていくと捉えているわけです。

 ただ、このゼミの目的は、それぞれの教授らによる理論的な違いを理解することではなく、「プロティアン・キャリア」を身につけ、より実践的なシーンで生かすことが大きな狙いです。そのため細かな解説はこの辺りにとどめて、次に進みましょう。

 では、具体的な事例を紹介しながらプロティアン・キャリアキャピタルについて考えてみることにしましょう。