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「自分らしく働ける」スキル、ありますか

 精神的な豊かさを高めつつ、経済的な豊かさを手に入れるという、一石二鳥のプロティアン・キャリア形成術に踏み込む前に、あなたは2つのスキルを備える必要があります。それが、アイデンティティーとアダプタビリティーです。

 この2つは、ダグラス・ホール教授が提唱するプロティアン・キャリア論の中でも重要な要素として扱われています。

 アイデンティティーとは「自分とは何者であるのか」ということ。ビジネスシーンで考えれば、「ビジネスパーソンとしての私らしさとは何か」を意味します。自分らしい仕事に没頭できれば、心理的な達成感は高まります。今の仕事に満足しているビジネスパーソンの多くは、仕事上でアイデンティティーを確立できている人だといっても過言ではありません。

 けれど皆さん「自分らしく働いたとしても、売り上げが伸びなければ給料はもらえない」「自分らしく働いても成果が出なければ、評価は下がる」と思いますよね。もちろん、その通りです。大切なのは「自分らしく働いて」アイデンティティーを確立することと同時に、それが市場や組織から求められていること。この状態が最も理想的と言えるでしょう。

 逆に言えば、社会的なニーズとずれたアイデンティティーをよりどころにしても、ビジネスシーンでは歓迎されません。そのために重要になるのが、2つ目のスキルであるアダプタビリティーです。アダプタビリティーとは「環境や社会の変化への適応力」、つまりビジネスシーンでは「組織や組織の変化に順応する力」と言えます。

 仕事にやりがいを感じて没頭できている人は、アイデンティティーとアダプタビリティーのバランスの取れた「プロティアン・キャリア」を形成している過程にあると言えます。逆に「今のまま、この仕事を続けていいのか」とか「仕事のやりがいを感じられない」と思っている人は、アイデンティティーとアダプタビリティーが不均衡な状態に陥っているのではないでしょうか。

 そして、ビジネスパーソンなら誰しも一度はこの不均衡で悩んだ経験があるはずです。

 ただダグラス・ホール教授が個人のキャリアから組織との関係性を見る「プロティアン・キャリア」を提唱している背景には、組織内キャリアでは確立しにくい、ビジネスパーソンとしてのアイデンティティーを「プロティアン・キャリア」で取り戻すことができるという論理があるためです。

 誰だって、上司や部署から与えられた肩書や、他人の評価ばかりを気にしていては、生きづらくなるものです。特にキャリアがつまずいた時は「こんなはずじゃなかった」と誰かを恨みたくもなるものです。けれど、精神的に自立し、アイデンティティーを確立できていれば、尊厳を持ったまま組織の中で働くことができるのです。そしてその姿勢が「プロティアン・キャリア」をより実践しやすくなります。