人生100年時代。ビジネスパーソンが「現役」として働き続ける時間はかつてよりも、ぐんと長くなっている。テクノロジーの進化や社会の劇的な変化、終身雇用と年功序列の崩壊に伴い、私たちはこの先、「同じ仕事だけを続けていく」ことが難しくなる。
それを解消するのが「プロティアン・キャリア」だ。「プロティアン」とは、ギリシヤ神話に出てくる、思いのままに姿を変える神・プロテウスのこと。そこから転じて、「プロティアン・キャリア」とは社会や職場の変化に応じて柔軟にキャリアを変えていく、言い換えれば「変幻自在なキャリア」を意味する。そんな働き方ができれば、どんなに社会環境が変わろうとあなたは生き生きと「現役」を続けられる。
「プロティアン・キャリア」を構築するためにビジネスパーソンに求められるのが、アイデンティティーとアダプタビリティーだという。「自分らしく」かつ「環境の変化に適応しながら」働くために、私たちはどう変わればいいのだろうか。連載4回目はそのための心得について解説していく。

本ゼミも、4回目に突入しました。少しずつ「プロティアン・キャリア」に対する皆さんの理解度も深まってきましたね。コメントを通じて、皆さんの経験や考えを知ることができてうれしく感じています。
皆さんのコメントを読んでいると、既に「プロティアン・キャリア」を実践している人と、現状の勤務先が組織内キャリアばかりを重視する結果、なかなか「プロティアン・キャリア」の実践が難しい人に分かれている印象を受けます。
たとえ、あなたが描くようなキャリアを形成できない職場であっても、「プロティアン・キャリア」では自らを変幻自在に変えていくことができます。さらに言えば「プロティアン・キャリア」を実践することで、組織内でキャリア形成をする人であっても、その人だけのキャリアを手に入れることができます。
このゼミで「プロティアン・キャリア」について考えているのは、その考え方が人生100年時代を豊かに過ごすための行動指針になると確信しているからです。そして、この「人生を豊かに過ごす」という言葉には、大きく2つの意味があります。1つは経済的に豊かに暮らすこと。そしてもう1つは、精神的に豊かに暮らすこと。
1976 年以降、米ボストン大学のダグラス・ホール教授が提唱してきたプロティアン・キャリア論は、豊かな経済の獲得を主眼としたものではありませんでした。「プロティアン・キャリア」は「外的に決められる成功の基準ではなく、心理的な成功感を得たいという内的なもの」と述べているように、精神的な豊かさを手に入れるためのものだったのです。
さらにダグラス・ホール教授は、キャリアを「仕事上の結果」と捉えず、「人生における過程(プロセス)」と考えることで、仕事や家庭、友人、趣味など、あらゆる関わりとの関係性を重視しました。
「プロティアン・キャリア」が提唱されるまでのキャリア論は、ビジネスシーンで形成されると考えられていましたから、ダグラス・ホール教授の問題提起は、キャリアの認識を大きく変える画期的なものでした。その点は、大いに評価されなければなりません。
ただここで1つ、疑問が湧きます。ダグラス・ホール教授の提唱する通りなら、「プロティアン・キャリア」とは精神的な豊かさ「だけ」を手に入れる方法であり、経済的な豊かさとは一切、関係がないことになってしまいます。
けれど、私はそうではないと思っています。
経済的な豊かさから精神的な豊かさを求める働き方へ認識を変えるだけでは、プロテウスの神のように、変幻自在にキャリアを構築することはできません。生活の質を高めるだけでは、「プロティアン・キャリア」という概念が矮小(わいしょう)化されてしまいかねません。そのため私は、ダグラス・ホール教授とは異なる可能性を「プロティアン・キャリア」の形成に見いだしているのです。
私の考える「プロティアン・キャリア」とは、ダグラス・ホール教授のプロティアン・キャリア論をもう一段階発展的に捉えて、精神的な豊かさを高めながら、経済的な豊かさも手に入れるキャリア形成術を指してます。果たして、そんなことはできるのでしょうか。
答えは、「もちろん可能です」。ただ実現するためには、あなたは2つの能力を手に入れなくてはなりません。それは何でしょうか。