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現在の議論のテーマ
その企業の既存領域とは関係ない分野で新規事業を立ち上げる難しさはどこになると思いますか?
市場環境の変化が激しく、新しい価値を創造し続けないと企業が生き残れない時代。正解がない中で企業は新規事業の開発にしのぎを削っています。本シリーズは、新陳代謝を繰り返し成長してきたリクルートと一緒に、新規事業を開発する術について議論を続けます。

 第6回は、既存事業とは関係ない分野での新規事業のつくり方について考えていきます。そもそも企業の既存事業と無関係の事業を立ち上げる必要があるのか、メリットとデメリットは?立ち上げるとしたらどんなことに気を付けたらいいのか……?など、様々な角度から議論していきます。

[議論のテーマ]既存領域とは関係ない新規事業のつくり方とは
  • 5/14-15 大企業がこれまで既存領域以外の新規事業に取り組んだ例は? その狙いや結果をどう分析する?
  • 5/16-17 既存事業とシナジーを生みにくい新規事業を大企業で立ち上げる意義はどこにあるのか。その企業の外で事業を立ち上げる場合と比較したメリット・デメリットは何か。
  • 5/20-21 既存領域と無関係の分野で新規事業を立ち上げるために必要なこととは?

 議論のきっかけとするのは、リクルートの新規事業「Seem(シーム)」。男性の妊活を促す精子セルフチェックツールで、実際にキットの開発もリクルートが担いました。同社の既存事業である求人広告やライフスタイルを中心とした販売促進メディア事業、人材派遣事業とは関係の薄い事業です。

 なぜメーカーでもないリクルートがこうした事業に乗り出したのか。発売するまでのハードルや事業立ち上げの難しさは。今回のテーマに対するヒントが詰まっています。以下に、Seemのプロデューサーである入澤諒氏のインタビューを掲載します。入澤氏には、コメント欄にて読者との議論にも参加していただきます。

「Seem」とは
スマートフォンを使った精子のセルフチェックアプリ。専用キットとアプリを使って撮影するだけで精子の状態を自分で確認できる。手軽にチェックできることから、男性の積極的な妊活への入り口になることが期待されている。
専用キットとスマートフォンのアプリで精子の濃度と運動率を測定できるサービス「Seem」。写真にある専用キットをスマホのカメラに取り付けて解析する。リクルートには同様のハードウエアを製造した経験がなかったが、パートナー企業と試作を繰り返してサービスを実現した(写真:竹井俊晴)

Seemはそれまでのリクルートの事業領域とは全く異なる分野での事業となります。開発の背景は?

入澤諒・リクルートライフスタイル「Seem」プロデューサー(以下、入澤氏):私はリクルートに中途で入社しました。その面接の際、「ヘルスケアのサービスをやりたい」と伝え採用されました。ただ当時、当社には専門部署がありませんでした。まずは広く新規事業を担当する部署に配属されました。

入澤 諒氏
リクルートライフスタイル「Seem」プロデューサー。大学卒業後、モバイルIT企業に入社。 女性向けの健康管理サービスの企画・プロモーションのディレクションや遺伝子検査サービスの立ち上げを担当。2014年11月にリクルートライフスタイルに入社し、新規事業開発部門に配属。 新規事業として『Seem(シーム)』を立ち上げ、現在はSeem事業全体の戦略策定からUXの検討、プロダクト開発までを担当する(写真:竹井俊晴)

 Seemのアイデアを思い付いたのは上司と飲みに行った時。「スマホで簡単に男性の精子を検査できるサービス」があったら便利なんじゃないかと。たまたまですがその上司は病院で実際に検査を受けたことがあった。「抵抗感があって病院の検査を受けるのがすごく嫌だった」と聞いて、ニーズはあると考えました。

 その次の日、その案をより具体化してすぐにスケッチを描きました。振り返ってみると、発売している現在のモデルとほぼ変わらないものですね。大学時代にバイオ系を専攻しており、前職では生理や排卵日を予測するアプリに関わっていたので、全くの門外漢ではありませんでした。

 ただ絵を描いたところで、リクルートだけでは作れない。様々なメーカーにアポを取ったり、不妊治療に詳しい専門家に相談に行ったりすることから始めました。