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「みなし失業者」に働いてもらうには?

「エリクラ」とは
短時間(2分〜数時間)の仕事を自分の近所で探せるサービス。仕事を依頼したい企業は、簡単な作業を近くに住む人に依頼できる。隙間時間に働きたい層にとっては、好きなときに近くで働ける仕事をすぐに探すことができる。リクルートが2018年7月に開始したサービス。2019年4月時点の提供エリアは、東京都の世田谷区、杉並区、渋谷区、狛江市、調布市、三鷹市、府中市、国分寺市、日野市、多摩市、小金井市、武蔵野市、神奈川県の平塚市、秦野市、埼玉県のさいたま市。順次拡大予定。

エリクラはオンライン上で、ビルの清掃やマンションの巡回点検など、物理的に自分の近くにある仕事を探せるサービスです。このアイデアを思いついたきっかけは?

今里亮介・リクルート次世代事業開発室(以下、今里氏):私も中村ももともと「SUUMO」で不動産媒体の広告営業をしていました。営業先であるマンションの管理会社を回っていると、同じような悩みを聞くことが多かったんです。「人手不足なのに、マンションの管理は無駄が多い」「移動コストと採用コストが掛かるから、できるなら近所にお住まいの方に仕事してほしい」というものですね。

 不動産管理会社は、離れた物件をいくつも管理しているケースがほとんどです。清掃などのためにその距離を行き来しなければなりません。無駄なコストが発生しており、その解消をどの管理会社も望んでいました。

今里亮介氏
テレビ局を経て、2014年にリクルート住まいカンパニーに中途入社。全国の大手不動産管理会社向けに、事業課題解決に向けた企画立案を担当。近所で好きな時に好きなだけ働ける仕事の地産地消サービス「エリクラ」の事業責任者を務める。

とはいえ、SUUMOの営業としては打つ手がなかった。でも、そこで「サービスを開発しよう」という思い切りはどこから?

今里氏:営業として、基本的に目の前のクライアントの悩みを一つでも多く解決したいと考えていました。実際、SUUMOの売り上げにはならないけども、「新婚向けにマンションの広告を出したい」という要望があれば「ゼクシィ」の営業を紹介したり別のグループ会社を紹介したりしていたんです。

 クライアントから悩みを聞いているうちに「確かに課題としては大きいし、広がりがありそうだ」と考えるようになりました。手元で解決に寄与するサービスはなさそうだし、何か作ってみても面白いかな、と。

中村光秀氏
ITメーカーを経て、2013年にリクルート住まいカンパニーに中途入社。テールから大手不動産管理会社まで幅広く担当し、賃貸領域における広告提案の他、集客・企画提案、業務支援などに従事。近所で好きな時に好きなだけ働ける仕事の地産地消サービス「エリクラ」の事業責任者を務める。

中村光秀・リクルート次世代事業開発室(以下、中村氏):じゃあどうしようと2人でブレストしている時に出てきたのが、仕事を地図上に落としてマッピングするというアイデアでした。「SUUMO」では絶対にできないアイデアだったので、リクルートの新規事業提案制度である「New RING」(現在はRingに改称)に提案してみようという流れになったんです。

きっかけは「事業者側の悩み」でしたが、働く側にもニーズがあると?

今里氏:我々が着目したのは「みなし失業者」と呼ばれる「働きたいが仕事探しは諦めてしまった層」です。リクルートワークス研究所によると、この層は全国で約397万人存在します(2015年時点)。なぜ仕事探しを諦めてしまったのか。大きな理由は「近くに仕事がない」「労働時間が長い」というものなんです。つまり、働きたくても既存のサービスではなかなかマッチングする仕事がない。

 実際に昨年、東京都狛江市でサービスのテストを実施しました。市内で複数の不動産を持つ企業から市内エリアでの十数件のビル清掃の業務をエリクラで募集したところ、30分ほどでワーカーが集まりました。50-60人ほどがすぐに集まったんです。「これはいける」と。先着順にマッチングしていくので、すぐに求人は埋まり、「もっと仕事はないんですか」と問い合わせを受けるような状態でした。

なるほど。双方にニーズがあったと。ただ、このサービスはエリア内である程度の仕事とワーカーの数量があることを前提にしているように思えます。人が足りない企業と仕事を探しているワーカー、それぞれはどうやって集めていますか?

今里氏:まずは仕事の量を確保するため、営業で獲得しています。我々は初期市場として賃貸の不動産をターゲットにしています。多くの管理会社が、あるエリアに複数の物件を管理しており、エリア内で仕事の総量が多い。

 仕事をまずは確保したうえで、ワーカー側はウェブマーケティングで集客しています。FacebookでもTwitterでもGoogleでもいいのですが、ユーザーをエリアで区切って効率的に広告を配信する形です。

企業側には営業を掛けているのですね。それだと労働集約的なビジネスモデルになってしまうのでは?

今里氏:企業かワーカーどちらかのエリアを固定しないと一歩目は難しいというのが現時点での結論です。どちらもウェブで集めるのが理想ですが、最初はなかなか難しい。実際に営業外で「興味がある」と言っていただくケースもたくさんあります。対象エリアを広げて営業に頼らない方向に持っていきたいとは考えています。

中村氏:我々は2人ともこれまで営業しか経験がなかったので、実際は「仕事」と「ワーカー」どっちを先に確保するのが正しいのかすら分からなかったんです。右も左も分からないなかで、まずは「仕事」だろうと。それでダメだったら次を考えよう。ずっとそれを繰り返しています。

狛江から始まり、現在は15行政区でサービスを展開されています。今の課題は。

今里氏:一番の課題は企業側の文化を変えること。簡単な仕事を切り出すといっても、個人委託に対する忌避感はどの企業にでもあるんですね。顔も分からない個人に仕事を任せられないという雰囲気がある。我々としてもリスクは極力取り除いているつもりですが、まだまだ忌避感を払拭できていません。これは営業として我々2人が越えなければならない点だと考えています。