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僕たちが「オワコン」になるという危機感

川本:社員だけが閲覧できるコミュニティーサイトを開設し、それぞれのアイデアを自由に投稿できる仕組みも用意します。そのアイデアに対し、「自分はこんな知識がある」「この分野であれば協力したい」とコメントを書き込めるので、そこでメンバーの募集もできます。

 あとはひたすら勉強会ですね。アフターファイブに我々が時間を取って、アイデアをブレスト。専門家を紹介したり、壁打ちをしたり。こうしたエントリー締め切り前の手間が一番重要なんです。

 経営陣の積極的な参加も必要です。先日の最終審査会にも多くの事業会社の社長が審査員として出席しました。会社としての本気度を示さなければなりません。

経済合理性が高くない新規事業に対してそこまで投資できるのはなぜでしょう?

川本:リクルートは事業の新陳代謝が非常に早い会社です。情報誌からスタートしてフリーペーパーに舵を切り、ネットビジネスに参入。この流れのなかで組織体も大きく変わりました。

 新しいものをつくっていかないと僕たちが「オワコン」になるんです。つくり続けていかないと企業として伸びないという危機感が常にあります。新しい事業を生んでもすぐにライバルが追いついてくる。その繰り返しですね。

新規事業を新しく生み続けているという印象がありますが、リクルートとして波もあるのでは?

川本:波はあるのかもしれませんが、Ringをはじめとして相当のチャレンジは続けています。年がら年中、みんなが何かを考え続けている。それがうまくいくかは我々の力量次第ですね。

改めてRingの制度について詳しく教えてください。

川本:まず特徴はボトムアップの提案だけを集めている点です。経営側から「この領域」という指定は一切ありません。顧客との接点を持っている現場のほうがマーケットの変化に敏感です。その現場の目線であらゆることに挑戦してほしい。だからこそ範囲を狭めていません。

 事業開発のターゲットは、6年以内の事業化を範疇とするカテゴリーと、長期的なパラダイムシフトを狙うカテゴリーに分かれます。後者は、既存事業と利害相反するけれども、将来の環境変化に備えた布石という位置付けです。先日の最終審査会でも、イノベーションのジレンマを乗り越えるような提案がありました。既存事業をいい意味で壊して発展させるような提案ですね。

 今回は629件の提案があり、1次審査、2次審査を経て、12案を最終選考に選びました。

 もう一つの特徴は、“伴走者”が付くことです。

 一次審査を通過した全グループには、次世代事業開発室のメンバー7人が付きっ切りで支援していきます。私のように過去に新規事業を立ち上げた人間もいれば、総合商社でフィリピンの現地法人を統括していたメンバー、コンサルティング会社で金融関連の新規事業を支援していたメンバー、起業経験のあるメンバーなど多様なプロフェッションを持つ人材を揃えています。

 ずっと既存事業をやってきた応募者が多く、事業計画を作り上げていくにはスキルが足りない場合があります。そこで伴走者が入って、リサーチの仕方や事業計画の立て方、顧客課題の見つけ方などをサポートしていきます。

なるほど。グランプリなどを受賞した後ではなく、審査の過程でも伴走者が付くのですね。

川本:最終審査を通過したものはさらに手厚い支援が用意されています。既存領域の場合は各事業会社でプロジェクト化し、社長がコミットして予算を付けて体制を整備したうえで事業化の検討を進めます。新規領域の場合は次世代事業開発室が引き受け、「ステージゲート方式」で進めていきます。半年に一度の「ゲート」を設け、テストマーケティングなどの結果を受けて撤退するか継続するかを判断する方法です。

 よく驚かれるのは、審査を通過して事業化検討が決まった時点で、提案者に事業会社各社を横断した20%の兼務辞令を発令すること。事業が進捗した際には、新規事業側に100%の専任辞令を出します。所属会社の拒否権はありません。

その過程で黒字化する比率は?

川本:全応募のうち、事業化検討フェーズまで進めるのが2%程度。さらにそのうち、検討を進めて黒字化に到達するのが15%程度ですね。

 今回は応募に間に合わなかったけれども筋の良い案件もたくあんあります。継続して我々がフォローしていくので、ぜひ来年応募してほしい。応募しなかったものも含め、我々のプールには非常に多くのアイデアのストックが貯まっています。Ringの進め方自体の改善にも早速着手しました。既に次回のRingに向けて動き出しています。