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議論のヒント、リクルート名物コンテストの秘密

 私たちが止まると、リクルートが止まるーー。

 1月17日、東京・銀座。リクルートグループの従業員851人があるホールに集まった。巨大なスクリーンに映し出された、イベントを象徴する文言の後で幕が上がると、白いスモークの中から9人の審査員が姿を現した。

 リクルートの北村吉弘社長、リクルートライフスタイルの淺野健社長、リクルートジョブズの葛原孝司社長、リクルートキャリアの小林大三社長……。グループ内事業会社の社長がずらり。映像や音楽を使った派手で大げさな演出。社内イベントにもかかわらず、多額の予算が付けられていることが分かる。このイベントに特別な意味があるからだ。

 「Ring」。1982年から続く同社の新規事業提案制度だ。全従業員が等しく応募できる。「カーセンサー」「ゼクシィ」「ホットペッパー」「R25」「スタディサプリ」……。リクルートの多くの新規事業がRingから生まれた。この日、従業員だけが参加できる2018年度の最終選考会が開かれた。最前列に並んだ9人の審査員が、社員の新規事業提案を直接批評し、事業化を検討するかどうか決める。

 「Ringに挑戦しないならリクルートを辞めたほうがいい」「我々のDNAであり文化。必ず毎年エントリーしている」。多くのリクルート社員がこう答える。

 今年度、集まったのは629件。グループでの提案が多く、協力者も含めると関わった社員は数千人になる。国内従業員約2万5000人のうち、相当割合の社員が毎年、新規事業を提案していることになる。この圧倒的な提案量が、同社が多くの新規事業を生み出せている理由の一つだろう。

 募集開始は昨年3月。応募総数629件のうち、7月の一次審査を通過したのは42件。その後、42件全てにリクルートの新規事業を担当する次世代事業開発室のメンバーが「伴走者」として提案を練り直した。11月までに提案をブラッシュアップし、12月の2次審査で12件に絞り込まれた。

 12件の事業範囲は様々だ。既存事業の規模を拡大させるような提案から、これまでのリクルートの事業範囲とかけ離れた全くの新規事業まで。中には、既存事業を壊して新しく生まれ変えらせるような提案もあった。各提案者による7分間のプレゼンの後で、審査員からの講評に移った。「この値付けで売れるとは思えない」といった意見から「ニーズがあるのは分かるが、なぜリクルートがやるのか考えよう」といった提案まで、頭ごなしに批判するのではなく、どうすればより良い事業になるかを議論するのも同社の文化だ。

 審査員による議論の結果、グランプリに当たる「ダイヤモンドリング」は該当ナシ。「もっと突き抜けた提案を」という経営陣からのエールが送られた。優秀賞に当たる「ゴールデンリング」には4件が入選。これらを含む数件が、実際に事業化の検討に入った。

 Ringには批判もある。「新規事業のことばかり考えて、現業がおろそかになっている社員もいる」。あるリクルートグループ出身者はこう話す。ただし、実際にこの制度から多くの事業が生まれていることは事実。「新規事業を生む組織」のヒントとなる点は多い。

 目の前の業務に忙殺されながら、なぜ同社の社員は空いた時間を使ってまでRingに応募しようとするのか。リクルートグループの新規事業開発を統括するリクルート次世代事業開発室長の川本広二氏に聞いた。