宮﨑:ご指摘の通り、24時間営業の問題と、ドミナント戦略によって既存店1店当たりの収益が減ってしまう問題とが、今のコンビニ業界で主に論争となっているテーマです。
少しコンビニの歴史をご説明しますと、大手3社が誕生したのは1970年代で、ほぼ同じ時期です。名前の通り、セブンさんは当初、朝7時から夜11時までの営業でした。24時間営業ではなかった。高度成長期で24時間働くような方が増えてきたのに伴い、要望が高まって、それに対応して24時間営業にしてきたという形です。
多店舗経営でオーナーの利益は増える
ドミナント戦略に関しても、最初のうちは店舗数が少ないですから、どこに出店する場合でも、自社はもちろん、他社の店舗もあまりなかったのです。その後店舗数が増えるドミナント戦略に効果があるということが実績として分かってきました。
そうした歴史があったのですが、今は先ほど申し上げたようにコンビニは全国に約5万8000店舗もありますから、新規出店する際、近くにほかのコンビニがあるという状況がザラになってきました。中には、別のローソン店があるケースもあります。当然、近くに新しいローソン店が出店すれば、既存のローソン店の売り上げは落ちてしまいます。しかし、他チェーンの出店を阻止しないと影響が出ます。
ローソンは2009年ごろからこの問題への対処が必要と考え、フランチャイズ加盟店のオーナーさんたちに多店舗経営を奨励してきました。1人のオーナーさんに複数店舗を経営してもらうという形です。現在では基本的には、新しい店舗ができることで一番影響を受ける店舗のオーナーに新規出店の権利があります。
入山:なるほど。
宮﨑:今、全店舗の72%が複数店経営です。オーナーさんの人数でいうと半数ぐらい。
入山:その数字はセブンやファミマと比べるとやはり多いんですか。
宮﨑:そうですね。うちは2009年ぐらいから始めたので先行しています。今はファミマさんもセブンさんも多店舗経営に舵(かじ)を切っていると聞いています。
多店舗経営にするとどうなるか。もともと日販が60万円の店舗があったとします。近くに別のローソンが出店した場合、60万円を分け合って日販30万円、30万円とはならないんですね。イメージ的には40万円、40万円ぐらいになる。合計した売り上げはざっと言ってもとの1.2~1.3倍程度になります。
1店舗経営だと確かに減ってしまうのですが、2店舗経営していればオーナーさんの利益は2倍まではいかないけれど1.5倍ぐらいにはなる。1店舗だけを営業しているところに他のコンビニチェーンやドラッグストアが進出してくれば収益は減りますから、その進出を防ぐというようなやり方をしています。

大阪大学経済学部准教授
2002年東京大学経済学部卒業。2007年米プリンストン大学で経済学博士号取得(Ph.D.)。政策研究大学院大学助教授を経て2014年4月から現職。専門はゲーム理論。共著書に『改訂版 経済学で出る数学:高校数学からきちんと攻める』(日本評論社)、『日本の難題をかたづけよう』(光文社新書)、編著書に『学校選択制のデザイン ゲーム理論アプローチ』(NTT出版)などがある。
安田:本部からすれば、ドミナント戦略で60万円の日販が40万円、40万円になるという動きが進めば進むほど、トータルの利潤は増えますね。単店舗経営のオーナーさんは60万円から40万円に減ってしまうけれど、複数店経営にすれば、よそにお客さんを取られてしまうリスクを内部化し、かつ店舗側も疲弊しないで済む仕組みになる。
宮崎:と言いつつも、すべての加盟店を一律に考えることはできないんです。ローソンは地域に密着して多店舗経営を展開し、本部とともに成長を目指すオーナーを「マネジメントオーナー(MO)」と呼んでいます。MOは180人ぐらいいて、平均10店舗以上経営しています。40店舗経営し1000人もの従業員を雇っているオーナーさんや、恐らくローソンの社長より年収が多いようなオーナーさんもいらっしゃるのではないでしょうか。その一方で、1店舗を夫婦で経営し、年収が最低保証の400万円ぐらいの方もいらっしゃいます。複数店舗経営を推進していきますが、地域に根差して単店で頑張っているオーナーさんの経営を守っていくのも本部の役目です。
入山:中には全く野心がないオーナーもいるんですね。
宮崎:単店経営が安定していても、日販が60万円、70万円あれば近くに競合店が出店します。コンビニに限らず、ドラッグストアとか外食とか……。こうなると経営がきつくなります。本部の全額負担により、店舗をより条件の良い場所に置き換える対策をしていますが、長年商売された土地を離れるのを躊躇されるオーナーさんもいらっしゃいます。
安田:そうなると、多店舗経営のオーナーを目指す仕組みやインセンティブづくりがカギになりそうです。コンビニ本部と加盟店の問題については、フランチャイズ契約のあり方も議論の的となっています。その辺りも含め、次回、さらに深くお話をお聞きしたいと思います。
略歴
宮﨑純(みやざき・じゅん)
ローソン専務執行役員
1980年日本エアシステム(現日本航空)入社。広報室羽田分室長などを歴任。2003年ローソン入社。執行役員コミュニケーションステーションディレクターなどを経て、2015年常務執行役員・コミュニケーション本部長兼広報室長兼社長室長兼人事副管掌などに就任。2018年から現職。
荒井淳司(あらい・じゅんじ)
ローソン中食商品本部商品戦略部長
1997年ローソン入社、店舗勤務を経て店長。その後スーパーバイザー、業務企画室、経営戦略ステーション戦略企画、商品戦略部マネジャー、シニアマネジャーなどを経て2014年から現職。
中井彰人(なかい・あきひと)
nakaja lab代表
みずほ銀行の中小企業融資担当を経て、同行産業調査部にてアナリストとして産業動向分析に従事。中小企業診断士として独立する。
入山章栄(いりやま・あきえ)
早稲田大学ビジネススクール教授
1996年慶応義塾大学経済学部卒業。98年同大学院修了。2008年米ピッツバーグ大学経営大学院で博士号取得(Ph.D.)。米ニューヨーク州立大学バッファロー校助教授などを経て2019年から現職。著書に『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』(日経BP社)などがある。
安田洋祐(やすだ・ようすけ)
大阪大学経済学部准教授
2002年東京大学経済学部卒業。2007年米プリンストン大学で経済学博士号取得(Ph.D.)。政策研究大学院大学助教授を経て2014年4月から現職。専門はゲーム理論。共著書に『改訂版 経済学で出る数学:高校数学からきちんと攻める』(日本評論社)、『日本の難題をかたづけよう』(光文社新書)、編著書に『学校選択制のデザイン ゲーム理論アプローチ』(NTT出版)などがある。
この記事はシリーズ「入山章栄・安田洋祐の業界未来図鑑」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。