
EV普及まで日本メーカー優位は保たれる
入山:わ、全員「○」だ。
安田:じゃあ、入山さんから理由をどうぞ。
入山:自動運転とは離れますが、この後、自動車市場では電気自動車が出てきます。といっても、たぶん一気に普及することはない。充電のインフラを配備しなくてはいけないし、バッテリー技術をもっと成熟させないといけないですから。
この前、トヨタ自動車がハイブリッドの特許を開放しましたね。あれはおそらく、うまく誘導すれば、当面マーケットがハイブリッド中心でいけると判断し、仲間を増やそうと考えたからだと読んでいます。つまり電気自動車への移行をなるべく遅らせようという狙いなのではないかと。

早稲田大学ビジネススクール教授
1996年慶応義塾大学経済学部卒業。98年同大学院修了。2008年米ピッツバーグ大経営大学院で博士号取得(Ph.D.)。米ニューヨーク州立大学バッファロー校助教授などを経て2019年から現職。著書に『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』(日経BP社)などがある。
ハイブリッドの設計思想ってガソリン車寄りです。部品点数がめちゃめちゃ多い。電気自動車は逆で部品点数が少ない。電気自動車はパソコンと同じで、部品やモジュールを組み合わせれば誰でもつくれます。それに比べるとハイブリッドは組み合わせて、すり合わせて、という技術が必要。これって日本の自動車メーカーがものすごく強いところです。
この先10年ぐらいなら、電気自動車はまだそれほど普及していないはずですから、日本の自動車メーカーの優位は保たれると僕は思っています。
安田:電気自動車が普及すれば自動車メーカーだけでなく、系列の部品メーカーなども厳しくなるといわれていますが、そういう変化は10年ぐらいならまだ大きくは進まない。トヨタなどはハイブリッドの仲間を増やして電気自動車への移行を遅らせつつ、一方で「MaaS」などへの対応も着々と進めているのではないかと。
入山:そうですね。電子機械産業には「スマイルカーブ」という現象が起きます。バリューチェーンの上流と下流はもうかるけれど、真ん中のアセンブリーメーカーはもうからないという状況です。典型はパソコン業界で、もうかるのは部品をつくっているインテル、OSをつくるマイクロソフト、エンドユーザー向けのサービスを手掛けるグーグルやフェイスブックで、組み立てるパソコンメーカーはもうからない。
電気自動車の時代になると自動車も同じで、組み立てをやっていた自動車メーカーがもうからなくなる可能性がある。だからトヨタは人工知能に投資したり、「イーパレット」の構想を打ち出したりして下流を取ろうとしている。さらに、上流を取るために、ハイブリッドの技術を開放して、システムサプライヤーみたいなことをやろうとしている。僕はそう理解しています。