「会う」プライオリティーは一層高くなる

武樋:私はいつも「『会う』と『テレビ会議』の間のレイヤーが1つ増えますね」という話をします。「『テレビ会議』以上にそこにいる感覚がある。でも『会う』までは至らない」というのがVRの状態だと思います。「テレビ会議」はなくならないし、「会う」ことに関するプライオリティーは一層高くなると思います。

入山:長島さんも武樋さんもVRで仕事をしていますが、人と直接会うことも重要視していらっしゃる。

武樋:はい。

長島:ものすごくたくさん会っていますよ(笑)。

入山:面白いですね。だから代替するものじゃないんだね。足されることで、新しい手段が増える。

武樋:今も手紙ってなくなっていないですよね。電子メールがこれだけ普及しているのに。手紙の役割、価値は変わったと思いますけど。連絡する手段だったものが、何か特別なことを伝えるための手段になった。そういう変化は起きていますが。

入山:人が会うことの重要性は変わらない中でVRをどううまく使っていくかがカギとなるわけですね。

 というわけで、いかがでしょうか。安田さん、VR業界の未来、見えましたか。

安田:ええ、存分に語っていただいて。VR初体験も済みましたし(笑)。

 印象的なのは、VRをきっかけに会議がつまらないものから楽しいものに変わるということ。結局それは、働くこと自体が楽しくなることにもつながるものだと思います。楽しい感覚、遊び感覚で働くことができれば、新しいアイデアも出て、イノベーションを生み出すこともできるんじゃないかと思います。そういう意味でVRは思っていた以上に大きな影響が及ぶものだと思いました。

入山:これまで、「VRはすごいぞ」という話を聞いても、何がすごいのかピンと来なかった人って多いと思うんです。僕もそうです。でも今日の話を聞いて、僕はVRが時空を超えられるというところが本当にすごいと思いました。

 もしかしたら、既にこの世から亡くなった人とも一緒に仕事ができるかもしれない。遠い宇宙で、それまで全然接点のなかった人と一緒に仕事ができるかもしれない。そういう圧倒的な時間と空間の広がりが持てるのがVR技術だということが分かった。これは確かにすごい。ものすごくいろんな可能性があるということに納得しました。
 いや、本当に面白かったです。

安田:長島さん、武樋さん、長時間ありがとうございました。

本日の出演者

長島聡(ながしま・さとし)
ローランド・ベルガー代表取締役社長
工学博士
早稲田大学理工学研究科博士課程修了後、早稲田大学理工学部助手、各務記念材料技術研究所助手を経て、ローランド・ベルガーに参画。自動車、石油、化学、エネルギーなどの業界を中心として、R&D戦略、営業・マーケティング戦略、ロジスティクス戦略、事業・組織戦略など数多くのプロジェクトを手掛ける。著書に『AI現場力 「和ノベーション」で圧倒的に強くなる』(日本経済新聞出版社)、『日本型インダストリー4.0』(日本経済新聞出版社)などがある。

武樋恒(たけひ・わたる)
シナモン代表取締役
1987年新潟県長岡市生まれ。2010年明治大学経営学部卒業。大手メーカー系SIer営業、ベンチャー企業でのWebマーケティングコンサル、個人での海外ビジネス立ち上げ、コミュニケーションロボット開発などを経験。2016年にVR領域で起業、Synamonを設立し代表に就任。VR空間上でのコラボレーションベースシステム「NEUTRANS」の開発、提供に注力している。

入山章栄(いりやま・あきえ)
早稲田大学ビジネススクール教授
1996年慶応義塾大学経済学部卒業。98年同大学院修了。2008年米ピッツバーグ大経営大学院で博士号取得。米ニューヨーク州立大学バッファロー校助教授などを経 て2019年から現職。著書に『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』(日経BP社)などがある。

安田洋祐(やすだ・ようすけ)
大阪大学経済学部准教授
2002年東京大学経済学部卒業。2007年米プリンストン大学で経済学博士号(Ph.D)取得。政策研究大学院大学助教授を経て2014年4月から現職。専門はゲーム理論。共著書に『経済学で出る数字:高校数学からきちんと攻める』(日本評論社)、『日本の難題をかたづけよう』(光文社新書)、編著書に『学校選択制のデザイン ゲーム理論アプローチ』(NTT出版)などがある。

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