現実と仮想の境目をどう残すか

安田:VR空間に入った時に境目がなくなるという意味で言うと、ゴーグルってやっぱりかなり没入感があると思うんです。スマートグラスは現実の中でつけているということを意識できますけど。一方で、つけているのが当たり前になると、常に現実とバーチャルの間の世界に生きるような感じにもなります。

 メガネ型のツールで思い出すのは「ドラゴンボール」のスカウター。相手の戦闘力を測るためのアイテムですね。

 これが今だったら、相手の顔がわかると、SNSのフォロワー数とか発言とかがうわーっと出てきたりするイメージ。こういう技術はすぐできそうじゃないですか。

入山:中国では今、個人の信用度が数値化されるようになっていますね。スカウターをつければ「あいつは信用度いくつだ」というのが分かる。

安田:今だと、スマホを開いて数値を調べるわけですけれど、メガネに相手の顔を映し出した瞬間、自動でぱっと信用度の数値が出るということが可能になるかもしれない。逆にスマートグラスがないとコミュニケーションが取れないというような状況になるかもしれません。

入山:武樋さんが最初にVRとはいかに現実と信じ込むかというお話をされました。逆にそこに境目がなくなりすぎると問題が起きる可能性もある。その辺はどう線を引くか。制度的な問題もあるし企業のモラルの問題もあります。なかなか難しいですね。

安田:ちょっと別の視点から1つお聞きしたいのですが。今回、体験させてもらったVR会議システムのような技術が発展することで、対面コミュニケーションはどう変わっていくのでしょうか。

 既にスカイプとかテレビ会議システムは普及していますが、やはりフェース・トゥ・フェースの対面コミュニケーションを重要と考える人は多いですね。

 だからこそ、都市に人材は集まります。VR技術の進歩でそこは乗り越えられるのか。それとも、あくまでも対面コミュニケーションの補完的に使うものなのか。広い意味での働き方、住み方に変化はあるのかどうかということですが、その辺、いかがですか。

対面コミュニケーションの重要性は変わらない

長島:対面コミュニケーションの重要性は変わらないと思います。何が変わるかというと、対面じゃないコミュニケーションの数が格段に増える。

 電話がない時代には、対面以外では話す機会は絶対的に少なかったですね。それが電話の登場によってぐんと増えました。対面じゃないコミュニケーションは電子メールが登場した際にも増え、SNSが登場した際にも増えています。どんどん乗っかってきている。人間の時間は1日24時間しかありませんから、すべては乗っかりきらないと思いますが。

入山:確かに僕、もう四六時中フェイスブックとかツイッターを見ています。よく考えると、ずっと人とコミュニケーションを取っている。これって、子供の頃にはなかったことです。VRが浸透すると、さらにそれが乗っかるということですね。

長島:そうです。

安田:コミュニケーション自体がどんどん増えると。なるほど。

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