
匠の技の継承にも活用できる
入山:ちょうど読者の方からそんな質問も来ています。慶応大学の小澤さんからで、「VRは個人で使うものというイメージがあるのですが、複数人と接続できるようになった場合どのような使われ方をするのかについて具体的に知りたいです」。
さっきのフライトシミュレーターなんかもそうですね。機長と副操縦士が離れた場所にいても一緒にトレーニングできる。
武樋:あと、最近は事業や技術の継承の問題が指摘されていますが、それもVR上で解決できると考えています。アバターの3Dをスキャンして、動きまでトラッキングしたものを残しておけば、熟練の職人さんの動きを見える化できますから。
入山:なるほど、記録に残せるんだ。さっき、長島さんが例に出した工作機械なんかは、今も日本が強いとされている分野です。受け継がれてきた職人のノウハウ、匠の技とか、そういうものへの応用ができれば、日本の製造業の復権につながるかもしれませんね。
長島:それは十分にあると思います。トレーニングの記録が残せますから、初心者の時にやったもの、中級者でやったもの、上級者でやったもの、匠になってやったものを追体験することもできます。
入山:高齢化で職人の後継問題が大きくなっている会社は、早くVRを導入して記録した方がいいかもしれない。
長島:今の時点でのコラボレーションもできますが、時間を超えたコラボレーションもできますよ。
入山:時間を超えたコラボ……。
安田:そうか、そうか。匠の技をデジタル空間上で再現できれば、後から来た、まだその時には生まれていないような世代でも動きをまねできる。
入山:すごい。昔、テレビで歌手のナタリー・コールが、お父さんのナットキングコールが亡くなった後、昔の映像や音源と重ね合わせて「♪アンフォゲッタブル~」ってデュエットして大ヒットしたことがありました。それを職人やビジネスの世界でもできるっていうことですね。

例えば、長島さんの言動を記録しておけば、長島さんがリタイアした後でも、ローランド・ベルガーの方たちは長島さんのノウハウを学べる。
長島:ええ、そうです。
安田:いや、面白いですね。入山さんの「アンフォゲッタブル」という歌も出ましたが、時間の超過については忘れてはいけないということで(笑)、この辺でこのテーマは終了としましょう。
長島聡(ながしま・さとし)
ローランド・ベルガー代表取締役社長
工学博士
早稲田大学理工学研究科博士課程修了後、早稲田大学理工学部助手、各務記念材料技術研究所助手を経て、ローランド・ベルガーに参画。自動車、石油、化学、エネルギーなどの業界を中心として、R&D戦略、営業・マーケティング戦略、ロジスティクス戦略、事業・組織戦略など数多くのプロジェクトを手掛ける。著書に『AI現場力 「和ノベーション」で圧倒的に強くなる』(日本経済新聞出版社)、『日本型インダストリー4.0』(日本経済新聞出版社)などがある。
武樋恒(たけひ・わたる)
シナモン代表取締役
1987年新潟県長岡市生まれ。2010年明治大学経営学部卒業。大手メーカー系SIer営業、ベンチャー企業でのWebマーケティングコンサル、個人での海外ビジネス立ち上げ、コミュニケーションロボット開発などを経験。2016年にVR領域で起業、Synamonを設立し代表に就任。VR空間上でのコラボレーションベースシステム「NEUTRANS」の開発、提供に注力している。
入山章栄(いりやま・あきえ)
早稲田大学ビジネススクール准教授
1996年慶応義塾大学経済学部卒業。98年同大学院修了。2008年米ピッツバーグ大経営大学院で博士号取得。米ニューヨーク州立大学バッファロー校助教授を経て2013年から現職。著書に『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』(日経BP社)などがある。
安田洋祐(やすだ・ようすけ)
大阪大学経済学部准教授
2002年東京大学経済学部卒業。2007年米プリンストン大学で経済学博士号取得。政策研究大学院大学助教授を経て2014年4月から現職。専門はゲーム理論。共著書に『経済学で出る数字:高校数学からきちんと攻める』(日本評論社)、『日本の難題をかたづけよう』(光文社新書)、編著書に『学校選択制のデザイン ゲーム理論アプローチ』(NTT出版)などがある。
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