安田:夢はデジタルとは関係がないですよね。VRがデジタルである必然性はないということですね。今いるこの現実とはちがうけれど、自分の中で現実と思えるような状況、空間になれば、それは広い意味でVRと。
入山:さっき出た催眠術なんて典型ですね。
武樋:テレビと何が違うかというと、テレビは平面図。中に入り込むことができるかどうかということですね。テレビとの比較をしているということは動画、映像のVRをイメージして質問していらっしゃるんだと思いますが、その動画や映像自体に違いはなくて、平面で見ているのか、360度サラウンドで見ているのかの違いということになります。
入山:我々がテレビを見る時には「これが現実だ」とは思いませんよね。当たり前ですけれど。現実の世界は我々がテレビを見ているリビング。画面の向こうにある世界を「仮想だ」と思って見ている。でも、もしテレビの中に入り込めて、その世界を「現実だ」と思えたらその瞬間からVRになる。
武樋:そうです。あとはドラマなんかを見ていて「のめり込む」ということがありますね。中に入り込むという感じ。本でもそういうことがあります。想像の世界に「のめり込む」。あれはまさにVRだと思います。
入山:なるほどね~。
VRとは「現実だと思って没入すること」
武樋:それを、よりのめり込みやすくする、自分が「没入した」と強く集中させるものがVRの技術であり、それを強く見せるためのものがVRゴーグルです。
入山:VRゴーグルは没入を助ける技術でしかないということですね。
長島:VRの世界って夢が共有できるんです。デジタルデータに変われば自分でおさめたものを他の人に伝えられるようになりますから。VRゴーグルは夢を流通させられる道具かもしれないですね。
あとは現実の世界をコピーして持って行くことができる技術。コピーして持って行くだけでなく、それに何か加えたりもできる。
入山:夢と現実の世界の境界線をぼやかすことができる。
長島:それをデジタルデータ化すれば経験として共有できるし、一緒に体験もできます。

ローランド・ベルガー代表取締役社長
早稲田大学理工学研究科博士課程修了後、早稲田大学理工学部助手、各務記念材料技術研究所助手を経て、ローランド・ベルガーに参画。自動車、石油、化学、エネルギーなどの業界を中心として、R&D戦略、営業・マーケティング戦略、ロジスティクス戦略、事業・組織戦略など数多くのプロジェクトを手掛ける。著書に『AI現場力 「和ノベーション」で圧倒的に強くなる』(日本経済新聞出版社)、『日本型インダストリー4.0』(日本経済新聞出版社)などがある。
入山:なんだかお話を伺っていると、すごく大きな可能性を感じます。
安田:バーチャルっていう言葉はもともと「実質的な」という意味ですよね。辞書を調べると分かりますけど。そこから転じて「仮想の」という日本語訳が出てくるわけですが。本来の意味は「現実そのものではないけど、実質的にそう見なせる」ということですね。
バーチャルの反対語としてリアルを使いますけど、それって本当はちょっと違う。リアルに極めて近いけど、文字通りのリアルじゃないのがバーチャル。
ゴーグルをつけてデジタルな世界を見るというのがVRと思っている人は多いと思いますが、実質的に現実だと思って没入できるというのが本来的なVRということですね。