各業界をよく知る第一線のゲストに話を聞きながら、今後、その業界がどう変わっていくかを探る連載「入山章栄・安田洋祐の業界未来図鑑」。第2回シリーズ(File 2)ではVRの活用に力を入れている独コンサルティング会社、ローランド・ベルガー日本法人の長島聡社長と、複数人が同時に接続できるVR空間を開発・提供するスタートアップ企業、シナモン代表取締役の武樋恒氏をゲストに招き、VR(仮想現実)についての議論を展開中。
今回の議題は「VRの現状」。「VRってそもそも何?」「ARとどうちがうの?」「複数人で使うと何ができるの?」といった読者の質問にゲストの2人が答えた。体験が難しいものを仮想で体験できるVRは航空宇宙、軍事、製造、建築などの各分野に浸透しつつある。空間だけでなく時間を超えたコラボレーションも可能なことから、技術・ノウハウの継承にも活用できる。ビジネス領域での可能性の大きさが明らかになり、熱を帯びた議論が繰り広げられた。
(取材・編集=小林佳代、写真・動画=寺尾豊)
入山:引き続き、VR(仮想現実)業界について、ゲストのお2人と議論を進めていきたいと思います。
実は今回、事前に「日経ビジネス電子版」で、読者の方に「VRについて聞いてみたい質問・疑問」を募集してみました。そうしたら、わずか数日の間にものすごくたくさんの質問・疑問が集まりまして。せっかくなので、専門家である長島さん、武樋さんに、これらの質問を直接ぶつけて、答えていただこうと思います。
では早速…。OVAL JAPAN 代表のSyunko Leeさんから、「『VR業界』という言葉の定義自体が曖昧なので、それを問いたい」という質問が来ています。
「テレビとVR、何が違うの?」
慶応義塾大学の鈴木さんからは「そもそも、テレビとVRは根本的に何が違うのか」という質問も来ています。
さらに、九州大学の弘中さんからは「何かの記事で『VRはARの1000倍の可能性を秘めている』という有識者の意見を見ました。そのこころを知りたいです」という質問が来ています。ARというのは拡張現実(Augmented Reality)ですね。そもそも我々、VRとARの違いもよく分かっていません。
まずはその辺り、「VRって何なのか」ということを聞きたい。
武樋:なかなかそれって難しい質問で……。VRって定義が難しいんですね。学術的には「人工現実感」という言葉が使われたりします。自分が「この世界は別の世界だ」と思い込めばそれはVRだと。広い意味でいうとそういうことになります。

シナモン代表取締役
1987年新潟県長岡市生まれ。2010年明治大学経営学部卒業。大手メーカー系SIer営業、ベンチャー企業でのWebマーケティングコンサル、個人での海外ビジネス立ち上げ、コミュニケーションロボット開発などを経験。2016年にVR領域で起業、Synamonを設立し代表に就任。VR空間上でのコラボレーションベースシステム「NEUTRANS」の開発、提供に注力している。
入山:ああ、自分が「ここは仮想だ」と思った瞬間からVRだと。
武樋:「別の世界だ」と思い込んだらVR。催眠術をかけられて、「違う世界に行った」と認識すれば、それもある意味ではVRです。
入山:なるほど。夢もVRになるんですか。
武樋:そうです。夢もVR。自分の想像の世界を体験するものですから。それを創り出す技術がVRです。